原発事故緊急対策マニュアル/人災/科学と社会

『原発事故緊急対策マニュアル』(日本科学者会議福岡支部核問題研究委員会編、合同出版)を読みました。

もともとこの本は、22年前の1989年6月に出版された本の新版です。チェルノブイリ事故の3年後でした。

旧版は、「国民に原子力発電に伴う危険を正確に知らせず、しかも、万一の事故の場合の対策を示さないことは許されない」として書かれましたが、その「万一の事故」を目の当たりにしての新版です。

旧版が出版された89年正月には、福島第二原発3号機で深刻な事故が起こっていました。原子炉のアクセルとブレーキに当たる重要な装置である「再循環ポンプ」が大破損していたのです。警報がなっているのに、約1週間後の定期点検予定日まで運転を引き延ばそうとしていたと推測されています。

再循環ポンプや配管が破損した場合、冷却材喪失事故を起こす危険があるわけですが、「そうした事故は起こらない」とする安全神話が現場に浸透していたというほかありません。

そうしたときに発刊された旧版の警告はけっきょく生かされませんでした。どこからどう見ても今回の事故は人災にほかなりません。

この新版は、「原発由来の放射能というまったく無用な人為的被ばくから市民の命と健康を守るために少しでも役立つとともに、科学と社会の関わり方、とりわけ科学者の社会的責任に関して新しい議論の契機にもなることも願って」書かれました。