放射線の人体影響を考える材料として

勉強会で、参加者といっしょに、「放射能と人体影響」について考えるための材料として書いた資料です。これ以上、字数をふやせませんが、加除訂正を加えていきたいとは思っています。ご意見・ご批判を!

①  これまで、放射性物質が原発から漏れ出す事故は「ぜったいない」という「安全神話」のもとで原発がつくられ続けてきたので、私たち住民が原発・放射能・放射線障害・放射線防護について知る機会はありませんでした。

②  「放射線」を出す物質を「放射性物質」といい、放射性物質が放射線を出す性質を「放射能」といいます。

③  放射線のなにが問題かといって、原子から電子をはじき飛ばし、原子と原子の結びつきを不都合にしてDNAを切断し、その量が多いと細胞を死に至らしめることです(→急性障害・確定的影響)。あるいは細胞が突然変異を起こし、その蓄積が障害を引き起こすことです(→晩発性障害・確率的影響)

④  細胞の放射線感受性は、細胞が未分化なものほど、細胞分裂が盛んなものほど、細胞の一生のうち分裂期間が長いものほど高くなります。子どもが大人よりも放射線感受性が高い理由です。胎児がもっとも問題になります。

⑤  幸いなことに、生体には、切断されたDNAや細胞を元通りにする修復機能が備わっています。

 

⑥  もともと自然界から受けている放射線量は、日本人一人当たりの平均は年間1.5㍉㏜(1500μ㏜)で、これは外部被ばくと内部被ばくの合計です。世界では年間2.4㍉㏜です。

⑦  放射線を浴びることによる障害は、被ばく線量が大きいときにすぐに現われる急性障害、被ばく線量は小さくてもあとになって現われる晩発性障害があります。また、被ばく線量がある値を超えると必ず発生する確定的影響と、被ばく線量に比例して発生の確率が増加する確率的影響があります。

⑧  確定的影響として、1シーベルト(㏜、1000㍉㏜)で吐き気や嘔吐などの急性障害発生、4㏜(4000㍉㏜)で50%の人が死亡、7㏜(7000㍉㏜)で99%が死亡します。0.1㏜(100㍉㏜)以下では、人間についての直接的証拠はまだ十分ではありませんが、ガンや遺伝的影響は、低いレベルでも起こりうると考えられています。

⑨  放射線と人体へのこうした影響のもっとも貴重なデータは広島・長崎の原爆被爆者の調査資料です。今も、生存者についての健康への影響調査は続いています。

⑩  被爆者がたたかってきた放射線量はシーベルト(㏜)・ミリシーベルト(m㏜) の単位です。いま問題になっているのはマイクロシーベルト(μ㏜)の単位です。1㏜は1000㍉㏜、1㍉㏜は1000μ㏜です。桁(けた)が3桁ずつ違います。100万μ㏜が1㏜。

⑪  現在発表されている各地の放射線量は、「もともと自然界から受けている放射線量+原発から飛散した放射性物質が出す放射線量」の、体の外部から受ける一時間あたりの値です。

⑫  原発事故以前のいわき市内では、自然からの放射線量の平均は0.05μ㏜毎時です。

⑬  いま、仮に、屋外で観測された放射線量が0.5μ㏜毎時だとします(通常の10倍)。この数字の意味は、観測されたその場所に1時間、ずっといれば0.5μ㏜の放射線を浴びる(外部被ばく)ということです。これと同じだけの内部被ばく(口や鼻、皮膚の傷口、食物や水から体内に入った放射性物質による)をその1時間のうちに受けたとすれば、0.5+0.5=1μ㏜の被ばくとなります。

⑭  ⑬のときに、1日中ずっとその屋外にいれば1μ㏜×24時間=24μ㏜、1か月ずっといれば24×30日=720μ㏜=0.72㍉㏜を浴びることになります。

⑮  低レベルの放射線被ばくの影響ははっきりしていません。専門家の多くは、低い被ばく領域でも低いなりの確率で影響が起こりうる、と考えています。その目安は「100㍉㏜浴びると、ガンによる死亡の確率が0.5%ほど上昇する」という割合です。

⑯  ⑭の場合だと、0.5%×(0.72÷100)=0.00036%上昇する可能性があるとされます。また24時間365日、1μ㏜を浴び続けたとすると、1μ㏜×24時間×365日=8.76㍉㏜となり、0.5%×(8.76÷100)=0.0438%上昇する可能性があるとされます。

⑰  いわき市の統計では、悪性腫瘍による死亡者数は05年1026人(全死亡者数に対して28.3%)、06年1066人(29.4%)、07年1058人(28.2%)、08年1051人(26.7%)。

⑱  実際にはいま、いわき市内の観測値は0.2~0.3μ㏜毎時です。「注意して過ごす」、それとも「移住する」、どちらを選択しますか?

⑲  放射線は、自然からだろうと人工のものからだろうと、受けないにこしたことはありません。「放射性物質からできるだけ遠くに離れる」「放射線をできるだけさえぎる」「放射線にさらされている時間を短縮する」のが外部被ばくに対する防護3原則、「口と鼻からの吸入を防ぐ」「皮膚の傷口からの侵入を防ぐ」「放射能に汚染された飲食物をできるだけ摂取しない」のが内部被ばくに対する防護の原則です。

⑳  食品の暫定規制値は、汚染された食品を1日1㎏毎日食べても健康に害を及ぼさない(将来、ガンになる確率が200万分の1高くなる)量に設定されています。これを超えた食品を出荷停止にしているのは、内部被ばくによる健康被害を減らすためです。