安倍医療改革の歴史的危険性/皆保険体制の解体を押しとどめる

150515安倍医療改革

『安倍医療改革と皆保険体制の解体』(岡崎祐司・中村暁・横山壽一・福祉国家構想研究会編著、大月書店)を読みました。

ここでいう「皆保険体制」は、たんに強制加入ということだけでなく、「国民みんなが保険証を渡されていて、自分で必要と思うときには隣の県の病院でも、自分で選んで受診することができ、しかも、保険がきかない治療は原則として存在せず、さらに、医者が必要と考えて本人も納得する治療は上限なしに保険給付がなされる」という内容をもった保険のことです。

そもそも自民党政権は、憲法25条に基づく社会保障の「向上及び増進」義務を怠り、とりわけ1980年代以降、皆保険体制は大きく歪(ひず)まされてきました。

「安倍政権は、皆保険体制の歪みの拡大という域を超え、皆保険体制そのものに総攻撃をあびせ、その解体に乗り出してい」ます。

本書は、「安倍医療改革の歴史的危険性について強く警鐘を鳴らすことを目的」として書かれました。

私たちとしては、皆保険体制の解体を押しとどめるためにも、「健康の自己責任論」に対して「社会的責任論」を対置すること、公的保障を抜きにした「選択の自由」と対抗し克服すること、政府がめざす、誰も責任をとらない無責任な「地域包括ケア」ではなく、住みつづける権利の保障を位置づけ、真の地域包括ケアのあり方を対峙し、権利性と市場化・営利化は相いれないことを明らかにすることが、きわめて重要です。

安倍政権とジャーナリズム/権力監視・真実の報道

150506安倍政権とジャーナリズム

『安倍政権とジャーナリズムの覚悟』(原寿雄[はら・としお]著、岩波ブックレット)を読みました。

著者は1925年、治安維持法と普通選挙法が成立した年に生まれました。

戦時中は「天皇教徒」であったと自らの立場を語っています。

戦後、大学卒業後の1950年に共同通信社に入り、編集局長・編集主幹を務め、86年から92年には社長でした。

安倍政権のもと、なにが秘密かも秘密で、ジャーナリストの取材も公務員に対する「教唆」とされれば罪に問うという「特定秘密保護法」が13年12月に世論無視で強行成立させられ、昨年(14年)7月にはそれまでの政府の立場を180度転換し、閣議決定だけで集団的自衛権行使容認の憲法解釈。

こうしたことを含めた状況は、大正デモクラシーが衰退した昭和前期のようだと指摘し、そういう時にジャーナリズムは政府に対する監視・批判の姿勢が弱まるどころか、幹部が安倍首相と会食を繰り返す始末。

まさにジャーナリズムの危機です。

「権力監視」「真実の報道」に徹するジャーナリズムの覚悟がほんとうに必要だと私も強く感じます。著者のような人がマスコミ幹部にいれば、いまのようなマスコミ状況に陥ることはなかったはずですが、そうも言ってられません。

核を乗り越える/生き方

150510核

『核を乗り越える』(池内了著、新日本出版社)を読みました。

著者は「泡宇宙論」の提唱で知られる宇宙物理学者で、ここ数年は「等身大の科学」など新しい博物学を提唱しています。

著者自身、「福島原発事故が起こって、私たちがこれまで知らずにいたこと(原発の反倫理性のように、積極的に知ろうとしなかったことも含めて)、これまで見過ごしていたこと(原発の専門家の傲慢性のように、マスコミが報道しなかったこともあって)、政府や電力会社にごまかされていたこと(電気代のカラクリのように、知らぬ間に利用されていることもあって)など、多くのことを知り・学び・体験してきた」と言っています。

「原発の反倫理性」については、「金と利権と引き換えに原発という危険物を過疎地に『押しつけて』いる」こと、「ウラン鉱石の採掘から精練・加工・装填・点検・修理・処理・廃棄・廃炉などの全労働現場において働く作業員に放射線被曝を『押しつけて』いる」こと、「現代の世代はその始末を未来の世代に『押しつけて』いる」ことの三点を指摘。

ともかく本書では、地上で利用できる資源を単にエネルギー源として使うだけでなく、生活物資として広く活用した「地上資源文明」へ、今後30~50年先には移行する展望を示してくれています。

「『核を乗り越える』意志を固め、時間の地平線を長くとって、文明の転換を先取りしていく、来るべき時代が求めているのはそんな生き方なのである」と本書を締めています。

最貧困女子/漁業の大問題

150506再貧困女子・漁業

『最貧困女子』(鈴木大介著、幻冬舎新書)、『日本人が知らない漁業の大問題』(佐野雅昭著、新潮新書)を読みました。

「最貧困」の著者は、「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心とした取材活動を続けるルポライターと紹介されています。

著者自身の活動を通した考察では、人は低所得に加え、家族・地域・制度の「三つの無縁」、精神障害・発達障害・知的障害の「三つの障害」から貧困に陥る、とされるものの、しかし、こうした考察・議論からもはずれた目も当てられないような貧困の地獄の中でもがいている女性、そして未成年の少女たち。

その貧困状態を可視化した本書が、女性の苦しみを緩和・解決する生産的議論の一助になってほしい、と、著者の叫びにも聞こえます。

貧困の可視化については、「チャイルド・プア」「子どもの貧困」「女性たちの貧困」も参照してください。

「漁業」は、著者による「あとがきに代えて-雑魚にこそ可能性はある」の次の文が象徴しています。

「日本の漁業、卸売市場流通、そして小売業者がこのまま劣化していけば、未来の消費者は『食』の豊かさも、日本が誇る『食』文化も失ってしまうでしょう。資源の管理も大切ですが、魚がいなくなるより前に、魚を食べる人がいなくなってしまいそうです。冗談ではなく、現実的な文化の危機だと思います」。

著者は水産物流通を専門とする水産学者です。

護憲的改憲論という立場/「憲法秩序」への権力者による攻撃への警鐘

150505タカ派改憲

『タカ派改憲論者はなぜ自説を変えたのか』(小林節[せつ]著、皓星社)を読みました。

「護憲的改憲論という立場」は副題です。

1992年3月に『憲法守って国滅ぶ』(ベストセラーズ)という挑発的タイトルの本を書いた時期に、一水会現代講座で同じタイトルで話した記録から、昨年2014年に「対米従属を強める解釈改憲 立憲主義に無知な安倍総理」のタイトルで書いた論説まで23編が収録されています。

著者は本書について、「現実に権力者の傲慢に日常的に接し続ける中で、自分が変化していることが自覚でき、同時に、日本国憲法の真価を強く意識するようになりました」と言い、「私の『成長』の跡をたどった」と位置づけています。

「解説」を書いている、著者の「弟子」の野口健格[たけのり]氏は、著者の「『護憲的改憲論者』としての立場は一貫している」と言い、「著者が、昨今の憲法状況(政府解釈による集団的自衛権の行使容認)に対し警鐘を鳴らしている理由は、権力者からの『憲法秩序』への攻撃を認識したからに他ならない」としています。

ともかく私は、国家の最高法規について、政治にかかわる人が、「私の信ずること以外の意見は聞く気がない」みたいな姿勢や、学ぶ姿勢に欠けることがもっとも危険だと思うに至っています。

改定介護保険/市町村国保は消えない

150502介護・国保

『改定介護保険法と自治体の役割』(伊藤周平・日下部雅喜著、自治体研究社)、『市町村から国保は消えない』(神田敏史・長友薫輝[まさてる]著、自治体研究社)を読みました。

「介護保険」は、1章から3章で改定の背景とこの制度の本質、医療・介護一体改革との関連、改定内容とその問題点を明らかにし、4・5章で自治体での運動課題、改革提言が示されます。

とくに第4章では「市町村への要求項目の例」が数多く示され、参考になります。

「国保」では、都道府県単位化という政策が進められているものの、その名称にもかかわらず、市町村がこれまでとほぼ同様に国保を運営すること、この政策が医療提供体制の再編と地域包括ケアシステムと連動していることを明らかにし、社会保障としての国保を整備すべき方向をさし示してくれています。

社会保障の個々の制度に限りませんが、住民・利用者からみて、ねじまげられた理念によって後退させられながらも、押し返したり改善の芽がつくられたり、と、しっかりと把握しないとなりません。

貧困の中の子ども/食と農でつなぐ

150405食農・貧困

佐賀県への往復があったので、『貧困の中の子ども』(下野新聞 子どもの希望取材班著、ポプラ新書)と、『食と農でつなぐ 福島から』(塩谷弘康・岩崎由美子著、岩波新書)を読みました。

後者は昨年8月、前者は先月発行で、それぞれ書店に並んだ時に購入して冒頭だけ読み始めたままになっていて、けっきょく、議会が終わって読書タイムがとれるようになった、というわけです。

「貧困」は、栃木県の地方紙である新聞社記者が、県内の宇都宮市・日光市・小山市はじめ、県内での取材だけでなく、東京都荒川区・足立区、イギリスにも足をのばし、昨年(2014年)1月から6月にかけて下野新聞に掲載した60回の連載がベースです。

私はこれを読んで、「見えない問題」を「見える問題」にして社会的・政治的に具体的解決の方向を探るジャーナリズムの本質を見た気がします。「真実の報道」「権力監視」の神髄ではないでしょうか。

「食と農」は、原発震災前後の阿武隈地域の女性農業者の「たたかい」を、とくに震災後に焦点を当てた物語、として読ませていただきました。

オビには漫画家の山本おさむさんが、「原発事故は大きく、人間はあまりに小さい。しかし小さなものの中にこそ希望がある」と書いているのですが、福島大学の研究者であるお2人のフィールドワークのこの書が、女性農業者へ震災のずっと前から寄り添う取材を通してまったくその通りだと、私は感じます。

「放射線被曝の理科・社会」「未来を探す人びと」「福島で起こっている本当のこと」/事故後のさまざまな問題

150314放射線被ばくなど3冊

この間、福井県との鉄道での往復もあり、『放射線被曝の理科・社会』(児玉一八・清水修二・野口邦和著、かもがわ出版)、『未来を探す人びと』(佐藤政男著、ウインかもがわ)、『放射線医が語る 福島で起こっている本当のこと』(中川恵一著、ベスト新書)を読みました。

「理科・社会」は、マンガ「美味しんぼ」をめぐる一連の論争が直接のきっかけで、簡単に言うと、放射線被曝に関して、あらためてちゃんと勉強しましょう、という呼びかけてす。

福島原発事故による放射線被曝について、あくまでも科学的な検討・検証にもとづいて語るべきで、影響評価に政治的な価値判断をもちこまず、かつ、原発の是非とは区別すべきこと、また、低線量被曝について、過去に蓄積された科学的な知見、さらには福島原発事故に獲得されたデータで分かっていることもあり、「何も分かっていない」かのように扱うのは事態をいつまでも混迷させる、という3人の著者の立場から書かれています。

「未来を探す」は、原発事故から1年7か月後に故郷である福島にもどり、「新薬学者技術者集団」機関紙「新しい薬学をめざして」に2012年12月から2014年9月まで13回にわたって「福島のいま」として掲載された文章です。「福島の現実を、私の個人的な感想ではなく、身近に得られる様々な情報から紹介」していて、「原子力発電事故の理解が進み、福島の人びとへの思いが深まれば」の願いが込められた薬学者の姿勢に感銘です。

150314散歩中

「本当のこと」の著者は、原発事故後、いまだ全町避難を強いられる飯舘(いいたて)村を支援し続けている放射線医です。事故から10か月後に「福島でがんはふえない」という論調の著書を出しましたが、それは放射線によるがんのことで、本書では、それを避けるための「避難」による健康状態の悪化ががんをもたらしかねない、と主張します。

とにかく、4年たって、福島原発事故後の様ざまに引き起こされている問題について、様ざまな立場で真剣に考える人たちの考えに接し、何をどう考え、解決の方向へどう向かうか、と、私も必死の思いです。根拠もなく、検証もなく、「私が正しい」と断じる人を私は信じません。

女性たちの貧困

150124女性の貧困

『女性たちの貧困』(NHK「女性の貧困」取材班著、幻冬舎)を読みました。

4日ほど前から読み始めましたが、取材対象となっている女性のその時の状況を想像しようとして立ち止まったり、戸惑ったりして、中断する機会がしばしばありました。

2013年2月のおはよう日本「“望まない妊娠” 女性たちの現実」、同年7月の地方発ドキュメンタリー「彼女たちの出産~二〇一三 ある母子寮の日々~」、14年1月クローズアップ現代「あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~」、同年4月NHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困~“新たな連鎖”の衝撃~」の取材内容ががもとになっいます。

「抗(あらが)いようのない貧困の中で、限界まで努力しながら疲弊していく女性たちに社会は何をすべきなのか、貧困の連鎖を断ち切るために、今できることは何なのか」、「女性たちの貧困をどうすれば克服できるのか、その具体的な手立てを探り、再び番組として伝え」、発信し続けるために取材は続いています。

「見えない貧困」「非正規雇用の現実」「『母一人』で生きる困難」「セーフティネットとしての『風俗』」「妊娠と貧困」「“新たな連鎖”の衝撃」「解決への道はどこに」「データが語る若年女性の貧困」が本書の章立てです。

「自治体消滅」論を超えて

150119自治体消滅

『「自治体消滅」論を超えて』(岡田知弘著、自治体研究社)を読みました。

昨年10月に「人口減少時代の地方自治」と題した講演(京都自治体問題研究所・第1回府民公開講座)をもとにまとめられたブックレットです。

昨年9月、安倍首相は、石破茂前幹事長を初の地方創生担当大臣に据えた際、石破氏に対し、道州制や地方分権改革の検討、国家戦略特別区制度の推進を指示しました。 昨年総選挙の自民党「政権公約二〇一四」には、「道州制の導入へ向けて、国民的合意を得ながら進めてまいります。導入までの間には、地方創生の視点に立ち、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民に一番身近な基礎自治体(市町村)の機能強化を図ります」とあります。

安倍政権によるこの「地方創生」について、今年のいっせい地方選対策としてのみ見る向きもなきにしもあらずですが、実はそれだけではないどころか、財界が求める「グローバル国家」の形をつくるための長期戦略の一環に位置づけられている、と言えます。

国家戦略特区、TPP(環太平洋経済連携協定)、道州制を相互に連動させている関係のなかでの「地方創生」です。 その方向と内容は「地方自治の蹂躙」にほかなりませんが、その大がかりな地方改造の露払い役として登場したのが「増田レポート」でした。

ともかく、いま、日本が進むべき道は、安倍政権が言う「地方創生」や、その前提となる「増田レポート」のなかにはありません。 高齢化がすすみ、災害が頻発している国土において必要なのは、誰もが住み続けられる、小規模自治体をベースにした重層的な地方自治制度と、憲法・地方自治法の理念に基づき、住民の福祉の向上を第一にした産業政策やエネルギー政策を含む地域政策を自律的に展開する地方自治体です。

なお、『農山村は消滅しない』、『地方消滅の罠』もご参照ください。