思惟する天文学

130805宇宙

『思惟する天文学』(佐藤勝彦ほか9人著、新日本出版社)を読みました。

副題は「宇宙の公案を解く」ですが、「公案」とは編集者あとがきによれば「禅の世界で、導師が弟子の修行の手助けをするために出題する課題のようなもの」と解説があります。

ともかく本書の企画のねらいに、天文学を「科学」の枠組みから「思想としての天文学」の枠組みへと拡張し、その可能性を探求する試みがあるようです。

そのために、その主旨に賛同した10人の研究者に、おのおのの関心に沿ったテーマでの論考を天文誌「スカイウォッチャー」に連載し、この記事から17年の歳月を経た2012年に後継誌「星ナビ」で、同じ執筆者による同じテーマの再論稿を掲載し、これらを構成しなおして編んだのが本書です。

日本を代表する10人の宇宙学者による「十人十色」の思索です。

自治体再建/コミュニティ/商店街再生

140413自治体・商店街・コミュニティ

手術後にベッド上でどんな状況になるか想像もつかなかったので、家から持ち込んだ本は手術前に読んでしまおうと思った2~3冊でした。

手術後、無理やり(?)歩かされ(?)てからは、体をちょっとでもひねるなりして切ったおなかの傷口を痛めなければ、なんとか読書はできそう。

こうした時のために、家には何冊か入院中に読めれば、と思った本を積んでおいたので、妻にお願いしてもってきてもらいました。

23日から25日にかけ、『自治体再建』(今井照著、ちくま新書)、『コミュニティを再考する』(伊豫谷登士翁・斎藤純一・吉原直樹著、平凡社新書)、『商店街再生の罠』(久繁[ひさしげ]哲之介著、ちくま新書)を読みました。

「自治体」は、副題に「原発避難と『移動する村』」とあるように、原発避難者が失ったのが毎日のリアルな日常生活であることを検証し、「帰還」でも「移住」でもない第三の道があること、3・11後の「自治体」のあり方を提言します。自治体が守るべきは、財政や地域経済なのでしょうか? 「人」のはずです。

「コミュニティ」は、3・11後に、「コミュニティの復権ともいえるような知的状況が出現してきた」現況のもと、「コミュニティに淡い希望を見出そうとするさまざまな力学が働いており…そのせめぎ合いを紐解」くことがねらいです。政治哲学、経済学、社会学の各専門分野からその地平を切り開く「再考」です。具体的・実践的な話も聞きたくなりました。

「商店街」は、昨年8月発行ですが、3・11を意識したわけではなく、それ以前から全国の商店街再生の現場を見て歩いた著者の分析とほんとうの復活への提言ともなっています。本書の冒頭から、「商店街が衰退する本質は『公務員など商店街支援者と商店主の多くに、意欲と能力が欠けている』ことにあ」り、これを「隠蔽するため、大型店を悪い強者に仕立てあげて『商店街は大型店に顧客を奪われた可哀想な弱者だから、救済すべき』という幻想を生み出した」と断じるのはどうなのか疑問なしとしませんが、ともかく、参考にすべきです。

いじめ解決の政治学

140312いじめ解決

開腹手術を午後に控え、午前中までに『いじめ解決の政治学』(藤森毅著、新日本出版社)を読みました。昼前から妻と義姉が来てくれましたが、何もせずに腹を切ることを待つわけにはいきません。

著者は東京大学教育学部で教育史教育哲学コースを専攻し、現在は日本共産党文教委員会責任者をしています(本書の著者紹介によります)。

第Ⅰ部は、「序」を含め、共産党が2012年11月28日に発表した党としての提案「『いじめ』のない学校と社会を」を直接のテーマにした4つの文章です。

第Ⅱ部はいじめ問題を切り口に、いじめと教師、厳罰主義と道徳主義、いじめと教育委員会、いじめと法律など、様ざまな問題について書かれた5つの文章です。

資料として党の2012年の提案とともに、2013年6月の「いじめ問題にかかわる法制化」についての党の見解が掲載されています。

ちなみに書名に「政治学」とあるのは、著者が党の文教責任者をしているからではなく、精神科医の中井久夫氏が論文で「いじめが権力に関係している(他人を支配する権力)からには、必ず政治学がある」と述べていることに触発され、いじめの政治学があるなら、いじめを解決する政治学があってもよい、の考えからつけた、とのこと。

国際原子力ムラ/科学の常識③

140411原子力ムラ・科学

『国際原子力ムラ その形成の歴史と実態』(日本科学者会議編、合同出版)、『聞くなら今でしょ! 今さら聞けない科学の常識③』(朝日新聞科学医療部編、講談社ブルーバックス)を読みました。

「国際原子力ムラ」は今年1月に発行されたもので、できれば2月議会の私の代表質問に間に合えば反映させたいとも思いましたが、まったくかなわないままでした。

核兵器の管理と原発推進を目的とする国際原子力機関(IAEA)が2012年12月に日本政府とともに「福島閣僚会議」を開催し、県との協力に関する覚書を結び、また、福島県立医大とも「人の健康の分野における」実施取り決め結んでいますから、福島県民としては座視するわけにはいきません。

国際放射線防護委員会(ICRP)の前身が1928年に設立された「国際X線およびラジウム防護委員会(IXRPC)」で、放射線に従事する医療従事者たちが自らを防護する必要に迫られた組織だったものが、今日ではその姿・目的が変わってしまっています。

本来、人々の健康のために活動するべき世界保健機構(WHO)がIAEAに従属していく歴史的経過もありました。そういえば、放射線による健康被害からどう健康を守るのか、WHOの姿は確かに見えません。

「今でしょ」は、朝日新聞科学グループが08年6月に最初の「今さら聞けない…」を出し、09年10月発行の②に続く3冊目です(今年1月刊)。

この本の初代と②は、朝日新聞日曜版「be」での紙上連載(09年3月~09年まで)からでしたが、今回は2010年4月から土曜版「be」に「今さら聞けない+」として復活した連載からのものです。

人気企画のようで、常識として知っておいていいと思います。

日本軍「慰安婦」制度/歴史を認め事実を伝える

140316慰安婦

『日本軍「慰安婦」問題すべての疑問に答えます。』(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)編著、合同出版)を読みました。

A4版の大きな本で70ページ弱です。

2007年に開催した「中学生のための『慰安婦』」展で作ったカタログに、新たな情報を加えて編集し、昨2013年11月に発行されました。

第1章の「日本軍『慰安婦』制度の仕組みと実態」では、日本政府が調査し発表した軍関係の資料や元日本兵の証言を含め、これまで積み上げられてきた調査・研究から「仕組みと実態」を明らかにします。

第2章の「『慰安婦』制度の被害と実態」では、朝鮮、フィリピン、台湾、インドネシア、日本、オランダ、中国、マレーシア、韓国、在日韓国、東ティモールの被害女性たちの証言です。そもそも、「強制連行しろ」などという文書が作られたはずもなく、どう連行され、どんな境遇だったかを語れるのは彼女たちだけです。

第3章は「日本政府の対応と、各国・国際機関の反応」、第4章は「女性国際戦犯法廷とNHK」、第5章が「教科書問題と『慰安婦』記述」です。

「日本人である私たちは、この加害の歴史を認めなくてはなりません。そして『二度と戦争を起こさない』『少女や女性たちを性奴隷にするような反人道的な行為は決して繰り返さない』という強い意志で、この『慰安婦』制度の事実を伝え続けなくてはなりません」(はじめに)。

 

文化と固有価値のまちづくり/あたらしい経済学

140312文化と固有価値

『文化と固有価値のまちづくり』(池上惇著、水曜社)を読みました。

「はじめに」がたいへんに強烈です。

「『日本の国土が地震多発地帯にある』という固有性を無視し、原子力発電所を大地震と津波が急襲する海岸の低地に建設する行為」を「『人間はエゴの塊であって何が悪い』という利己主義」の象徴として断罪しています。

3・11を契機に、日本各地における被災者との交流、災害からの復興支援の絆の広がり、さらには都市生活の反省から新たな故郷への回帰の輪が広がり、これらのことが経済発展と地域再生は「文化と固有価値によるまちづくり」によるとする認識を広げている、と著者は指摘します。

本書は、「一人ひとりの実践」を基礎とした良心経済の“ひろがり”と“つながり”こそ、経済発展の原動力とする「あたらしい経済学」の提起の書でもあります。

140315きょうのラーメン

ついでながら、昼食に作った具だくさんのラーメン。ニンジン、ホウレンソウ、コマツナ、モヤシ、ワカメ、カツオブシ、チャーシュー。これだけたくさん食べられるのも最後?

日本漁業の真実/成長すべきは人間

140312漁業真実

『日本漁業の真実』(濱田武士著、ちくま新書)を読みました。

福島の漁業は現在は試験操業のみで、本格操業再開のめどすらありません。著者は、福島県地域漁業復興協議会委員や釜石市復興まちづくり委員会アドバイザーなどを務める漁業経済学などの専門家ですが、こうした地域への復興の思いも強く感じます。

古くからの漁場の棲み分けがあっても、有効に利用されていない漁場や資源があるのなら、人、資源、漁場、漁法を新たに検討して「漁礁の維持・保全・再生」すること、消費地の末端やユーザーとたくさんの産地を結ぶ大事な拠点として存在してきた水産物の卸売市場の本格的な再生が熱く語られます。

著者に与えられた本書のテーマは「日本漁業を俯瞰する」ことなのですが、「成長すべきは経済よりも、人間ではないであろうか」が問題意識の根底にあることがよくわかります。

里山資本主義・郷土人形

140306里山・人形

『里山資本主義』(藻谷浩介・NHK広島取材班著、角川oneテーマ21)と『郷土人形 西・東』(不破哲三・上田七加子著、里文出版)を読みました。

「里山」は、岡山県真庭市、広島県庄原市、オーストリア・ラムザウ村とギュッシング市、山口県の周防大島、島根県邑南(おおなん)町・松江市、鳥取県八頭(やず)町に見る「里山資本主義」の現場。

著者らが言う「里山資本主義」とは、「お金の循環がすべてを決するという前提で構築された『マネー資本主義』の経済システムの横に」再構築しておこうという「お金に依存しないサブシステム」。

現場とそこを支える人びとの姿から、その「システム」がよくわかります。

「郷土人形」は、不破さんが全国遊説の折に集めた土人形・張子・土鈴などの郷土玩具とともに、これらを通じた人びととの出会いが語られます。「里山資本主義」のふるさとを見る思いでした。

加藤周一最終講義/日本文化-九条の会

140209加藤周一

『加藤周一 最終講義』(かもがわ出版)を読みました。

加藤さんは、08年12月に89歳で亡くなったのですが、私にとっては、簡単に言ってしまえば「知の羅針盤」のような人でした。もっともそれは、社会的・政治的発言に関してです。彼の文学的・芸術的知見に私はついていく気もありませんでした。

本書には、00年から08年にかけての9年間に、京都を中心とする加藤さんを囲む勉強会での座談、佛教大学、北京・精華大学、立命館大学での講義がおさめられています。

立命館大学での話以外は、この本で初めて活字になりました。

全体を貫くテーマは「日本文化とは何か」。その出発点が、1931~45年の日本のばかげた戦争をなぜしたのかのわけを突き止める強い関心です。

直面する時代に即し、時代を超える普遍的なものをとらえたい、という姿勢です

その関心と姿勢が04年6月10日に立ち上げた「九条の会」と、「書くだけではなくて、もう一歩踏み出した組織に初めてコミット」し、「少なくとも歩行できる程度の体力が残っていれば、抵抗したい」行動につなげる生きざまに、ものすごい感動を覚えて読み終えました。

日本共産党の深層

140228深層

『日本共産党の深層』(大下英治著、イースト新書)を読みました。

「結党91年の老舗政党の本質とは何か。日本共産党最高幹部への丹念な取材を重ね、その深層をいま解き明かす」と、表紙カバーの裏に書いてあり、「あとがき」では「本書の構成、叙述については大下自身に帰属する」とあります。

「はじめに」では、「戦前、戦後の戦いから、今日までを、今回の取材で明らかにした」とあります。

タイトルには「深層」とありますが、私から見ると、「共産党のありのままの姿をそのまま伝えてくれている」といった印象です。

元衆院議員の松本善明氏、副委員長の市田忠義氏、国対委員長の穀田恵二氏、政策委員長の小池晃氏、元参院議員の畑野君枝氏、先だっての参院選で当選した吉良よし子氏などへの取材で聞いた話を克明に記録してくれています。

こういった本って、あまり見たことがありません。よかったです。