地震列島日本の原発

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『地震列島日本の原発』(立石雅昭著、東洋書店)を読みました。

著者は新潟県の「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」とそのもとの「地震、地質・地盤に関する小委員会」の委員を08年2月から務めていて、3・11時は、その小委員会で柏崎刈羽原発2~4号機の耐震安全性を審議していた真っ最中でした。

本書は、原発の危険性に30年余にわたって向き合ってきた地質学者としての著者が、地震列島日本における原発の危険性を広く知っていただきたいとの思いでまとめられました。

2007年7月16日の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発の被災、そして2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震・津波による福島原発事故のあとに発表してきた文章に大幅に手を加えたもので、以下の章立てです。

第一章 地震活動期にある日本列島と原発の耐震設計
第二章 柏崎刈羽原発震災の教訓とは何だったのか
第三章 各地の原発の断層に関する調査結果(柏崎刈羽、浜岡、志賀)
第四章 福島原発事故の要因と規制機関の役割(4つの事故調報告の検証も)
第五章 原子力規制委員会の活断層評価をどう見るか
第六章 これまで原発の耐震安全性の評価はどのようになされたか
第七章 産官学の癒着問題と研究者の役割

今また、政官財が、マスメディア、研究者・技術者を巻き込んで原発再稼働にひた走ろうとしています。こんな暴走を止めさせるのは、「原発はいらない!」のまっとうな願いをもつ私たち国民以外にありません。

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本書の表紙にある「日本の周辺の活断層分布と原発の位置」は、活断層研究会『新編日本の活断層』(1991年、東京大学出版会)に加筆した地図です。

日本列島の歴史/「網野史学」

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『列島の歴史を語る』(網野善彦著、藤沢・網野さんを囲む会編、ちくま学芸文庫)を読みました。

著者は10年前に亡くなった、日本中世史が専門の歴史学者ですが、本書は今月発行です。

『日本の歴史をよみなおす』(1991年・96年の同名正・続の本を05年に1冊にまとめて同文庫から発行)が「50万部のロングセラー」の広告と合わせて宣伝されていて、つい、ひかれて購入しました。

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もともと著者の歴史学に関しては、大学卒業後の1980年代半ばから興味をいだき、その後もごく一部の著作を手元に置いていたのですが、ほとんど「積んどく」状態です。

「日本列島島国論」「稲作一元論」などへの根本的疑問、「女性、老人、子供まで含め」て、「常民の生活の日常的なあり方、意識の動き」、「農業以外の生業に携わる人たち、と同時に、山野河海という場所、道や市という場そのものの性格、そこを生活の舞台にする人々の生活」、「日本列島を…いくつかの独自の歴史、ある場合には独自な国家を持ってきた地域、ある場合には日本列島を越えた地域の歴史のなかで、民族国家が形成される過程」を明らかにしたい、との意欲の成果です。

「網野史学」と世間一般では言われていますが、きわめて興味深く感じています。

今みたいな機会がなければ、なかなか読めず、あらためて学びたい気持ちがふつふつと沸き立ちました。が…

高野病院奮戦記

140419高野病院

『福島原発22キロ 高野病院奮戦記』(井上能行著、東京新聞)を読みました。

高野病院は広野町にある唯一の病院で、内科(療養病棟)65ベッド、精神病棟53ベッドの病院です。

3・11時には入院患者が101人(外泊が+6人)。12日午後3時36分、第一原発1号機で爆発音、14日午前11時1分、第一原発3号機建屋が水素爆発、15日午後6時過ぎ、第一原発2号機で爆発音。

広野町は12日に町民に自主避難勧告を出し、13日には避難指示。

広野病院は避難せず、町民のいない町に残り、残さなければならない患者を院長が37人に決断。

停電後の自家発電、食料調達も困難ななか、食事も、睡眠も、震災前に近い状態で入院生活を支えました。

著者は、「笑って読んだが、防災に役立つヒントが得られたという本を書きたかった。ピッタリの人が見つかったというわけだ」と書いていますが、その人が「じむちょー」の高野己保(みお)さん。

震災前から病院ブログで名前を名乗らずに「じむちょー」と書き綴っていましたが、震災後の3月21に再開・アップ時からは2か月間、「高野病院事務長の高野です」と名前を出し、病院や患者やスタッフの実情を知らせ続けました。

今現在も、地域医療を地道に支える民間病院として奮戦継続中です。あの原発震災から3年間、日の当たらない「奮戦」は山ほどあろうかと思います。よくぞ書いてくれた、の思いです。

比較改憲/熟議の時間

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『比較のなかの改憲論』(辻村みよ子著、岩波新書)を読みました。

2012年12月に自民・公明の第二次安倍政権復活とともに現実味を帯びてきた改憲。そして「96条先行改正論」が強まった13年3月末以来、「外国の憲法では憲法改正手続きはどうなっているか」といった質問が、比較憲法を専門とする著者に多くなった、とのこと。

本書ではこうした疑問に、比較憲法的視座から憲法改正をめぐる諸見解や諸外国の例をできる限り客観的に解説し、問題の本質を浮き彫りにすることをめざしています。

なにより、平和や憲法改正について、党利党略や「政治の論理」、時代錯誤の復古主義的思考によって主権者を翻弄させることがあってはならず、これからの憲法論は、個人の人権を守るために国家が存在し、戦争こそが最大の人権侵害であることを基礎として、新時代を先取りする観点から論じることが肝要であり、そのためにも熟議の時間を十分に確保することか最重要と訴える著者の言うとおりだと思います。

福島の子ども保養

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『福島の子ども保養 ~協同の力で被災した親子に笑顔を~』(西村一郎著、合同出版)を読みました。

福島県生協連、福島県ユニセフ協会、福島大学災害復興研究所が協力し、原発震災被災地・福島の未就学児と小学生やその保護者を対象に、週末や長期の休み期間中に低線量の地域で過ごしてもらうために、震災の年2011年の12月にスタートした「子ども保養プロジェクト」(コヨット)の実践現場取材報告です。

「コヨット」とは、「子ども」の「コ」、「保養」の「ヨ」、「プロジェクト」の「ト」を取ってつないだ愛称で、「来よっと!」という呼びかけでもあります。

本書は著者が、2013年3~11月にかけ、福島の子ども保養の活動に参加した参加者の気持ちを理解しようと、東京都、福島県、大阪府、奈良県、茨城県、青森県、新潟県、富山県で参加者と時間を共有した記録報告です。

原発事故の収束の見込みも見えないなか、低線量とは言え、目に見えない放射線に苦しむ子どもたちや保護者のための保養のとりくみは、本来、行政の事業だと私は思いますが、ともかく、本書では生協がかかわる活動の紹介です。

国民の生活の安定と生活文化の向上に寄与する生協法の理念からすれば、生協の社会的役割発揮とも言えます。

生協でよく言われる「一人は万人のために、万人は一人のために」は、本来の意味からすれば、「私は仲間のために、仲間は私のために」としたらどうか、と著者は提案しています。より身近に私も感じます。

加藤周一自選集10

140404加藤周一

『加藤周一自選集10』(鷲巣力編、岩波書店)を読みました。

加藤さんは1919年9月19日生まれで2008年12月5日に亡くなりました。加藤さんの紹介でよく表現されるのが「和洋漢の幅広い教養と繊維な感性」や「日本の文学・思想・美術の歴史を世界史的視野から見つめる態度」など。

2004年6月の「九条の会」発足時は、9人の呼びかけ人のうちの1人でした。

本書は「自選集」の第10巻で、加藤さんが生きた最後の10年間である1999年から2008年の絶筆となった文章まで、著作100篇を収めています。

執筆された短い文章で、「朝日新聞」の「夕陽妄語」に掲載された文章も多いのですが、講演や対話を文字に起こしたものよりも、密度が濃いです。「刊行にあたって」編者は、「加藤氏の著作は、文意は明瞭、視点は斬新」「美しく、精確な文で表現」「詩人の魂と科学者の方法を兼ね備えた稀有な作家」「少数者としての矜持を保って発言し続け、弱者を理解する姿勢を崩さなかった」と評しています。

「失われた町からの声」/「新富裕層」

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冊子の『失われた町からの声 福島/残る人・去った人』(名越智恵子著)、『「新富裕層」が日本を滅ぼす』(森永卓郎監修・武田知弘著、中公新書ラクレ)を読みました。

冊子のほうは、入院中、私が住む隣りの住宅地のかたが自宅に届けに来てくれたもので、1995年から11年間、いわき市内の昌平黌・東日本国際大学で教鞭をとられていました。東日本大震災後、放射線関連の講演依頼を受けていわき市にも何度か足を運んだそうです。

もともと著者は、原子核実験にかかわる仕事をしていて、そうした講演の際に出された質問や意見のメモを読み直し、整理し、もっとも切実と思われる問題を68のQ&Aにし、序章と終章を加えて出来上がったのがこの冊子です。

140411新富裕層

「新富裕層」は、大蔵官僚だった著者が、「日本経済がなぜ低迷し、なぜ国民生活が一向に豊かにならないか」、それは「現在の大企業や富裕層に有利な所得分配や税制を通じて、経済成長の成果が大企業や富裕層に集中し、庶民や中小企業に回らないため、消費が低迷してデフレになっている」メカニズムにある(森永氏の解説)ことを明らかにしています。

古典教室全3巻

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『古典教室』第1巻~第3巻(不破哲三著、新日本出版社)を読みました。

2011年1月から翌12年2月まで、日本共産党中央委員会が主催した「綱領・古典連続教室」の「古典」の講義をまとめたものです。

古典教室では、科学的社会主義の理論の全体の基本点を、世界観、経済学、社会主義(未来社会論)、革命論の4つの側面から学ぶことが主眼です。

なにより、「日本共産党は、ソ連の覇権主義、干渉主義と闘いながら、理論面でも、スターリン的なねじまげとの闘争を粘り強くおこない、マルクス、エンゲルスの本来の科学的な立場を復活させ、それを現代に発展的に生かす」意欲と成果がくっきりと現れる講義です。

ちなみに構成は第一課マルクス「賃金、価格および利潤」、第二課マルクス「経済学批判・序言」(以上、第一巻)、第三課エンゲルス「空想から科学へ」(第二巻)、第四課エンゲルス「フランスにおける階級闘争」(マルクス)への「序文」、第五課マルクス、エンゲルス以後の理論誌(以上、第三巻)です。

歴史から学ぶ

130129歴史から学ぶ

『歴史から学ぶ 日本共産党史を中心に』(不破哲三著、新日本出版社)を読みました。

Ⅲ部構成で、第Ⅰ部が党創立90周年(2012年)と85周年(07年)の記念講演、および07年に亡くなった宮本顕冶さんへの党を代表しての弔事弔辞の3編。

第Ⅱ部は、野呂栄太郎と彼が責任者として企画・編集にあたった『日本資本主義発達史講座』(岩波書店、全7巻、1932年5月~1933年8月配本)を中心に、日本共産党の戦前の理論史に光をあてた2編。

第Ⅲ部は、日本の過去の戦争について、もっぱら政府・軍部の公式文書によって、領土拡張の野心を最大の原動力とした侵略戦争であったことを余すところなく明らかにしています。「靖国」派や「復古・逆流」派がいかに歴史の事実に目をそむけ、観念的に戦争美化論を繰り返しているかがよくわかりますが、ともかく、国民的規模で徹底的に撃破しなくてはなりません。

まぁ、ともかく、不破さんのたゆまぬ理論活動はたいへんなものです。

日本共産党綱領

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『綱領教室』第1巻~第3巻(志位和夫著、新日本出版社)と『党綱領の力点』(不破哲三著、日本共産党中央委員会出版局)を読みました。

綱領は、政党にとっては命みたいなもので、エンゲルスなどは1875年にすでに「公然と打ち立てられた旗であって、世間はこの旗によってその党を判断します」と言っていました。

日本において、綱領をそうしたものとして位置づける政党は、共産党以外にはなさそうな気がしますがどうなのでしょうか。

日本共産党の綱領は、1961年の第8回党大会でつくられ、2004年の第23回党大会ではその精神をしっかりと引き継ぎつつ、国民に分かりやすいものに大きく改定されました。

この教室は、2010年に党中央として1年がかりで「綱領・古典の連続教室」を開くことを決めた党史上初めての試みでした。綱領を志位委員長、古典を不破社会科学研究所所長がつとめ、「綱領」は12回にわたった講義を3巻にまとめたものです。

「力点」は、2013年3月の「特別党学校」での講義をまとめたものです。

ちなみに日本共産党の綱領の構成は、第一章「戦前の日本社会と日本共産党」、第二章「現在の日本社会の特質」、第三章「世界情勢-20世紀から21世紀へ」、第四章「民主主義革命と民主連合政府」、第五章「社会主義・共産主義の社会をめざして」。

旧ソ連や中国や北朝鮮と「社会主義・共産主義」を直結してイメージされる人も少なくないのですが、社会主義・共産主義の未来社会のキーワードが「自由」であり「人間の自由な発展」であることを自らのものとすれば、旧ソ連が社会主義とは無縁国家であったし、北朝鮮もおよそ社会主義とは言えず、中国・ベトナム・キューバなども社会主義をめざす国家建設を進める途上にあることは明々白々だと思います。