いのちの格差の是正/人権としての医療・介護/民医連の神髄

140611民医連

『いのちの格差を是正する』(全日本民主医療機関連合会、新日本出版社)を読みました。

綱領にかかげる「無差別・平等の医療と福祉」の立場と実践から、人権としての医療・介護は可能だとして、昨年12月に発表された「人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言」です。

日々の実践のなかでとらえた「医療・介護・国民生活の現状」、「あるべき医療・介護の姿と国の責任」、そのうえで当面の課題として「安全・安心、人権としての医療・介護を実現する提案」、健康の社会的決定要因に注目して憲法25条にもとづき「憲法で保障された『生存権・健康権』の実現めざす提案」、これらの支えとなる「『人権としての医療・介護』を支える財源提案」が、簡潔・明瞭に示されます。

「予防の充実と保険で十分な治療を受けられる歯科医療へ」、「国と東電の責任で全ての福島原発事故被害者の健康と暮らしを守る」こともしっかりと位置づけられています。今年2月議会での私の質問では、原発労働者に関するこの民医連の提言を使わせてもらいました。

また本書では、2010年5月~9月末に29都道府県・180事業所からの420事例を集約した「『介護保険10年』検証事例調査報告」、2013年9月~11月に要支援者の給付管理を担当するケアマネジャーを対象に900を超える事例を集約した「次期介護保険『改正』による影響予測調査結果報告」、2012年1月~12月末に25都道府県から58件報告された「2012年国保など経済的事由による手遅れ、死亡事例調査結果報告」、2013年2月12日~3月20日の期間に聞き取った1,482人の「生活保護受給者緊急実態調査報告」、無料低額診療事業を実施する民医連歯科28事業所利用者の28事例をまとめた「歯科酷書」の五つの報告が資料として掲載されています。

Health for all をあきらめない民医連の神髄に触れられます。

140611散歩

物理学入門/真実を見抜く/とらわれない考え方の困難さ

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『物理学入門』(武谷三男著、ちくま学芸文庫)を読みました。

この本は、1952年に岩波新書として、1977年には季節社から増補版として出版され、先月、文庫本として筑摩書房から発刊されました。

武谷さんは、オビにもあるように、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹(1949年、中間子の存在の予言)、朝永振一郎(1965年、量子電磁力学の基礎的研究)、南部陽一郎(2008年、素粒子物理学における自発的対称性の破れの発見)にも影響を与えた物理学者で、2000年に89歳で亡くなっています。

なぜ今この本が? と思いつつ買い求めたわけですが、上條隆志さんの「解説」によれば、「とりわけ福島原発事故を経て、だまされずに、真実を見抜く力をだれもが身につける必要性は高まっている」から。

「科学者たちが、時代と社会の制約の中で、どうやって次のステップを切り開いたか、節目となった重要な考察のひとつひとつの、位置づけと論証の仕方が整理され」、「それがいかに困難で、自分が身につけてきた知識や考え方を否定するどれほどの苦しみを味わったかが、感じられる本だ」と。

武谷さん自身が「はしがき」で、「物理学の概念の変革は、科学がいかにとらわれない考え方を必要とするか、とらわれない考え方はいかに困難なものであるかを示している」と記しています。

「農と言える日本人」/足尾と水俣に学ぶ

140603農

『農と言える日本人』(野中昌法著、コモンズ)を読みました。

たぶん、新聞広告で書名を最初に見た印象が、うまくシャレたつもりかなぁ、などと軽く思ったのですが、後日、書店で現物を見て購入し、読んでみてえらく感銘を覚え、最初の印象が恥ずかしく思えてしまいました。

原発震災後、福島の農家と農業現場を歩き、「福島での調査・研究をとおして農業の力に改めて驚き、それを謙虚に受け止め、農家とともに歩みつつある」、「福島県、そして東日本の農業の復興と振興は、農業現場と結びついた本来の農学の復権でなければならない」と著者は言います。

そして、「原発事故と放射能汚染、福島の農家の苦悩、それに対する政府と東京電力の対応を見るにつけ、田中正造から学ぶことが多い」、また、「水俣病の教訓を現場で学び、被害者と各分野の専門家が協力して地域の自治を進め、被害者の人権回復を行ってきた」医師の原田正純さんの実践から、足尾銅山事件と水俣病事件の教訓にも学ぶことの重要性にもふれています。

「農業の『育てる』力を基礎として、『農と言える』人たちを『育てる』ことこそ、いまの日本農業に必要だ」の言葉が、現場の農民の実践に支えられているだけに、ずしりと響きます。

日本の歴史/多様なダイナミズム

140528日本の歴史

『日本の歴史をよみなおす(全)』(網野善彦著、ちくま学芸文庫)を読みました。

オビにあるように、「50万部突破」の大反響だそうです。

本書は、91年に発刊された『日本の歴史をよみなおす』と、96年に発刊された『続・日本の歴史をよみなおす』をあわせて05年に刊行された本で、手元にあるのは昨年(2013年)8月の28刷です。

1928年生まれの網野さんは04年に亡くなった中世を専門とする歴史学者ですが、網野さんの業績は「網野史学」とも言われています。

「続」の「あとがき」で、「これまで『常識』とされて、今も広く世に通用している日本史像、日本社会のイメージの大きな偏り、あるいは明白な誤りの根はまことに深いものがあり、これをただすことはわれわれが現代を誤りなく生きるためには急務」と書いています。

各章名を並べると、「文字について」「貨幣と商業・金融」「畏怖と賎視」「女性をめぐって」「天皇と『日本』の国号」、「日本の社会は農業社会か」「海から見た日本列島」「荘園・公領の世界」「悪党・海賊と商人・金融業者」「日本の社会を考えなおす」。

ともかく、日本の歴史の多様なダイナミズムの姿が感じられます。

 

家永三郎さん/安倍政権への対抗の方向

140503家永三郎

『家永三郎生誕100年 憲法・歴史学・教科書裁判』(家永三郎生誕100年記念実行委員会編、日本評論社)を読みました。

家永さんは1913年生まれで、2002年に89歳で亡くなっています。

家永さんといえば、私にとっては、「教科書裁判」の原告として、単なる教科書問題だけでなく、憲法や教育のあり方を含め、たたかい続けた人、という印象です。

だいたい、教育にかかわって、興味・関心をもって見る意志をもつ契機をつくってくれたのは家永さんの存在だ、くらいに思っています。

最初の教科書訴訟は1965年6月に検定処分と検定制度を違憲・違法として国家賠償請求訴訟として(第一次訴訟)、次にその2年後の1967年6月には不合格処分の取り消しを求めた行政訴訟として(第二次訴訟)、そして最初の提訴から19年後の1984年1月には「80年代検定を争う」といわれた国家賠償請求訴訟として(第三次訴訟)、裁判が行なわれました。

1997年に第三次訴訟最高裁判決にいたるまで32年に渡る、家永さんにとっては人生の後半生をかけたたたかいです。

この本は、昨年8月31日に開かれたシンポジウム「生誕100年 家永三郎さんの学問・思想と行動の今日的意義-歴史認識と教育を考える」での報告・発言、懇親会での発言をもとに構成され、20人のかたがたが執筆しています。

第二次安倍政権の乱暴ぶりについて、30年余もの「教科書検定違憲訴訟の闘いは一体何であったか、と思わせるほどの凄まじさ」も語られますが、この政権のもとでの「教育改革」、「情報統制」、「安全保障」、「憲法改正」などの動きの問題点や対抗すべき方向性を国民的にさぐる契機になればと思います。

「古典教室」を語る/一歩一歩、真剣勝負

140505古典

『「古典教室」全3巻を語る』(不破哲三・石川康宏・山口富男著、新日本出版社)を読みました。

入院中に読み切った不破さんの『古典教室』全3巻について、著者を交えて、その魅力・読みどころについてのてい談です。

一昨年(2010年)12月から約1年の「綱領・古典の連続教室」の「古典教室」を不破さんが受け持ち、第一課「賃金、価格および利潤」(マルクス)、第二課「経済学批判・序言」(マルクス)、第三課「空想から科学へ」(エンゲルス)、第四課「『フランスにおける階級闘争』(マルクス)への『序文』」(エンゲルス)、第五課マルクス、エンゲルス以後の理論史、の講義を3冊にまとめたものです。

私の関心としては、古典と日本の今現在の社会との関連いかんであり、04年1月の党大会で改定した党綱領にどう生きているか、がいちばん。

それへの回答はもちろん、ずいぶん以前に接したままの古典とのかかわりで、科学的社会主義の世界観(哲学)・経済学・未来社会論(社会主義)・革命論の4つの構成部分、「古典」が書かれた当時の世界の歴史の流れ、これらを書いたマルクス、エンゲルス自身の思想の流れは、不破さん自身が探求しつづけながらの今の到達を語ってくれていて、新鮮です。

同時に、石川さんが「政治的に自主独立の立場をとることと、自主的な立場できちんとした理論的な成果が生み出せることは別の問題」として、不破さんに「理論的な成長の過程がなぜ可能であったのか」と聞いていますが、ともかく、「一歩一歩」「根拠を研究し吟味し」「真剣勝負」の連続がこれからも続くようです。

エネルギーとコスト

140503エネルギー

『エネルギーとコストのからくり』(大久保泰邦著、平凡社新書)を読みました。

簡単に言うと、必ずやってくる「低エネルギー社会」へ向け、人間として必要な知識と新常識を示してくれる、と言っていいと思います。

「エネルギー収支比」、エネルギーの「質」の違い、日常生活で石油と深く関係している素朴な疑問、「石油ピーク」など、45のクエスチョン(Q)に答えるかたちで、石油文明の流れ、今の石油社会、将来のあるべき社会の姿を見えるようにしよう、という著者の意図です。

というのも、日本では「情報はその分野の専門家からの偏った情報だけが伝わる仕組み」になってしまっていて、「的確な情報が伝わっていない」ことが「この本を書く動機だった」というわけです。

日本は資源小国ではなく、石油小国と言い換えるべきといったことや、原発が安かった理由は、燃料費が安いことと、安全に対するコストを十分かけていなかったから、といったことも語られます。

必ずしもすべてに納得いくわけではありませんが、一人ひとりの「少しの変化が積み上げられ、日本全体が変わっていくのだ」との思いが込められています。

子ども・被災者支援法、避難の権利

140501避難の権利

『「原発事故子ども・被災者支援法」と「避難の権利」』(eシフト[脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会]編、合同出版[ブックレット])を読みました。

人の人生を根本的に変えてしまった福島原発事故を体験しながら、これをなきものとしようとする財界・政界の動きが露骨です。

汚染水問題をはじめ、事故収束がいまだ先が見えないにもかかわらず、国が前面に立つ姿勢はまったく見えません。被災者・被災地切り捨て安倍政権です。

ほんとうの意味で被災者に寄り添い、「『多様な選択肢』を認めたうえで、被災地と移住先を行ったり来たりすることを支援し、移住した後でも被災地の復興に資する方法も模索するべき」、「『自己決定権の尊重』と、それを実質的に保障するための『情報公開』と、『多様性』を認め合う社会が、被災者にとっても、これからの日本全体にとっても必要なのではないか」とは、私はまったく同感です。

いろいろな立場、考え方があるのは当然のことで、「それを乗り越えるためには『多様性』を認め合うことが前提」とすることを、社会に根づかせる営みが不可欠だと思います。

原発技術者の証言

140430原発証言

『“福島原発” ある技術者の証言』(名嘉幸照[なか・ゆきてる]著、光文社)を読みました。

副題に「原発と40年間共生してきた技術者が見た福島の真実」とあります。

巻末には佐藤栄佐久元福島県知事の推薦文「日本人の中の日本人 名嘉幸照さんのこと」も掲載されています。

著者は4歳のときに沖縄で終戦を迎えた沖縄生まれ。

一等機関士として日本郵船の貨物船で世界をまわり、アメリカ船籍機関士としてもスーパータンカーにも乗っていた人。

縁があって原子力を学び、1969年にアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)に入社。

福島第一原発1号機が運転を始めた1971年の2年後から、GEの日本人技術者として30代前半から福島に赴任。

1980年にはGEから独立し、原発プラントを中心に点検・管理する「東北エンタープライズ」を立ち上げて現在に至っています。

「人生の40年を捧げた福島の原子力発電所。安全を守り、福島を豊かにしようと、つとめてきた私の人生は、いったい何だったのだろう」と自問しつつ、この40年を振り返り、「本書で私が最も強調したいのは、『原発は安全』という嘘が、すべての元凶という事実」と語ります。

原発に注文し続けていた人たちに対しても、「どうしてその事故が起きたのか、原子力行政や東電のありよう、原発プラントが抱えるリスクまで深く理解し、掌握したうえで、『原発反対』を言っていたかどうか」と疑問を投げかけています。

いちから聞きたい放射線/チャットから生まれた本

140429いちからわかる

『いちから聞きたい放射線のほんとう』(菊池誠・小峰公子著、おかざき真里・絵とマンガ、筑摩書房)を読みました。

先日の「朝日新聞」の読書欄で目にし、ついひかれました。

小峰さんは福島県郡山市に実家があるミュージシャン。菊池さんは物理学者。

郡山市は国による避難指示はなかったものの、県内でも空間放射線量が比較的高く、小峰さんの実家は市内でも汚染がひどかった地域らしいです。

小峰さんは言います。

「原発事故が報じられると、たちまちのうちに多くの情報が流れ、いろいろなデータが出てきては、様々に『解釈』され、それがよく理解されないままにどんどん拡がっていき」、「これまで知らなかったたくさんのことが出てきて」、「次々と難問をつきつけられようで」、「頼れる友人」の「菊池誠さんに、わからないことをメールやチャットでとことん聞きました」。

その「貴重なやりとりを私のPCだけに収めておくのはもったいない、これに加えて、女子のこころをぎゅうっとつかんで離さないおかざき真里さんのステキな絵の力もお借りできたら、科学に馴染みのないかたにも手にとっていただける本ができる」。

菊池さんも「インターネットを通じて交わしたチャットがもとになっています」と言っています。

こうして今は本が生まれるんですね。

「いま知っておきたい22の話」です。「放射線ってなんだろう」で12の話、「放射線とわたしたち」が10の話。「朝日」で評されているように、「読みやすく、ユーモラスで、誠実な1冊」です。

140429読書中