「立憲主義の破壊」に抗(あらが)う

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『「立憲主義の破壊」に抗う』(川口創[はじめ]著、新日本出版社)を読みました。

著者は1972年生まれの弁護士で、04年2月に提訴し、08年4月17日に名古屋高裁が「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」とする違憲判決が確定した「イラク自衛隊派兵差止訴訟」の弁護団事務局長を務めていました。

いわきでも5年前、ご本人から話を聞く機会もありました。

判決から6年余りが過ぎましたが、アメリカやイギリスがイラク戦争の失敗を教訓に、軍事力依存の政策から大きく転換したなか、日本だけがイラク戦争から何も学ばず、むしろもっと戦争をする方向へと進んでいるように思わざるをえない、と、著者は言います。

安倍政権による憲法破壊は、集団的自衛権、特定秘密保護法、日本版NSC(国家安全保障会議)、新防衛大綱、武器輸出三原則の廃止などをワンセットとして進める意図をあからさまにしています。

専守防衛から海外へ部隊を送る軍隊とすることで、空母も長距離弾道ミサイルをもつなど組織・編成・装備も変えられ、地方自治は国防に組み込まれ、マスコミによる「広報活動」が拡大する一方で取材活動は制限され、国民の言論活動の自由も制限され、教育の政治介入が進み、大学に対する軍事関連への強要も強まって学問の自由が奪われる…。

安倍政権は、長年国会で議論したうえで、憲法上「認められない」としてきた集団的自衛権行使をあっさりと「できる」としてしまう政権です。

異常な政権であることははっきりしていますが、自動的に倒れることはありません。「立憲主義の破壊に抗い、日本の主権を守る。日本の子どもたちの未来を守るたたかいは、始まったばかりです」。

カジノ狂騒曲/安倍首相が最高顧問辞任/刑法の重み

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『カジノ狂騒曲』(竹腰将弘・小松公生著、新日本出版社)を読みました。

「国の将来、子どもたちの未来を左右しかねない重大な問題であるにもかかわらず、カジノ合法化について、国民の間では議論はまったく進んでいません。カジノ議連など、国会でカジノ合法化法案を成立させようとしている勢力は、むしろ、その危険な内容に国民が気づかぬうちに、大慌てで法律を通そうとしているかのようです」(本書「まえがき」)。

私も「気づかぬ」1人であることは間違いありません。

震災後、ある知り合いから「いわきの復興にカジノは格好の手段だから手伝ってください」と声をかけられたことがあります。本書で紹介されている「全国カジノ誘致団体協議会(11団体)」には「いわき経済同友会」も入っています。

きのう、参院予算委員会で大門みきし議員が質問し、安倍首相にカジノ議連の最高顧問をやめるよう求めたところ、あっさりと「ご指摘はごもっともなので、最高顧問はやめさせていただく」と答えました。

日本は実はすでに世界有数のギャンブル大国であり、ギャンブル依存症も突出して高い国になってしまっています。国家として何の対策もとっていないために、「自己責任」とされてしまっていて、国民の目に見えていないことがきわめて重大問題です。

そこに「カジノ合法」ともなれば、刑法によって賭博を禁じる重みがいったい何なのか、きびしく問われることになります。

ブックレット4冊/地方自治・脱原発・保育

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この間、ブックレットの4冊を読みました。

『日本国憲法の地方自治』(杉原泰雄著、自治体研究社)は、今年7月の「第56回自治体学校」での記念講演の記録に加筆したものです。日本国憲法の第2章・憲法9条とともに、「第8章 地方自治」がとくに軽視されてきた、と著者は指摘します。その抜本的な転換を図るため、「憲法の地方自治」に不可欠な理念・理論・技術と人材を持続的に開発・育成する日本自治大学の創設を提起します。

『「3・11フクシマ」の地から原発のない社会を!』(第二回「原発と人権」全国交流集会「脱原発分科会」実行委員会編、花伝社)は、今年4月の表記の分科会での報告と議論の記録です。「脱原発をめぐる情勢と闘いの展望」「脱原発訴訟の意義と展望」とともに、この集会後の5月21日「大飯原発運転差止請求事件」での福井地裁判決を受けての特別寄稿もあります。

『これでわかる! 子ども・子育て支援新制度』(保育研究所編、ちいさいなかま社発行)と『保育新制度 子どもを守る自治体の責任』(中山徹他3人著、自治体研究社)は、来年(2015年)4月から始められようとしている新制度について、いまだに不明な点が多いこの制度の概要と問題点、課題、この制度の本質とねらいを解きほぐしてくれます。

宇都宮弁護士の生き様

140909悪と闘う

『「悪」と闘う』(宇都宮健児著、朝日新書)を読みました。

率直に、宇都宮さんが、市民運動で社会を変え、人権を守るために「闘う」生き様を学ばさせてもらった思いです。

宇都宮さんは、2010年2月から、いろいろな事情で2012年5月まで、日本弁護士連合会会長在任期間が史上最長となった弁護士です。

それに、2012年と2014年の東京都知事選挙に立候補し、2度とも次点でした。

本書ではとくに、2度目の選挙となった今年の都知事選で「脱原発派一本化で立候補を辞退しろ!」と迫られたなかで闘った裏舞台をありのままにあかしてくれます。

それよりも本書の圧巻は、「クレサラ運動」=クレジットカードによるショッピングやキャッシング、サラ金、中小業者向けの商工ローン、違法なヤミ金などが原因の多重債務被害をなくすための消費者運動を、被害者とともに闘った著者の軌跡です。

運動の継続、全国組織との連携と構築、財政基盤の確立、運動体として、政党を含めた柔軟な連携が重要なことが実体験から語られます。

本書での「悪」とは、都知事選で流された悪意のあるデマやネガティブキャンペーン、高金利の消費者金融による多重債務者問題、貧困と格差を拡大する政治を含めた、様ざまな社会問題を指しています。

宇都宮さんの都知事選対「希望のまち東京をつくる会」の活動は続いており、2018年の都知事選へ向けた意欲を感じました。

空き家問題

140909空き家問題

『空き家問題』(牧野知弘著、祥伝社新書)を読みました。

震災直後の時期でしたが、津波被災地を歩いていた時に、地元のかたが「あそこは空き家。ずいぶん長いが、こんなことになったから、所有者はもう戻らないんじゃないか」と言っていたことを思い出しました。

少し高台だったので、津波の影響はなかったものの、地震によっていかにも傾いた感じでした。

こうした空き家はどうなるんだろうなぁ、と思ったことが、実は全国的に大問題であることを、この本であらためて知りました。

あの時も、「この場所では、借りたい人も買いたい人もいないもんなぁ」と話をしたことを覚えていますが、同じことが、この震災とはまったく別に、進行しています。

いわき市内でも、早くに開発された団地などは、道路はせまく、店舗は撤退し、バス路線も廃止され、その団地の空き家を買い取って新たに住もう、とは思えない団地も少なくありません。

本書でも紹介されていますが、丘の上のある「超」高級戸建て住宅街に住んでいた高齢者たちが、JR駅近くに分譲されたマンションに住みかえようとしたところ、前の住宅に買い手がまったくつかず、家の「買い替え」ができない現実があります。

また、住んでいない家屋を解体更地にしてしまうと、その土地の所有者の固定資産税が実は跳ね上がるために、空き家を解体せず、そのまま放置せざるを得ない現実もあります。

こうした「空き家問題」の現状と自治体などの今の対応についてはたいへんに参考になります。

第5章はこうした現実を受けて、「日本の骨組みを変える」提言ですが、自治体の数を大幅に削減するとか、そのための企画立案は中央集権的な発想で行なうべきだとかの話には、なぜそうなるの? と大いなる疑問です。

いずれにせよ、空き家問題は日本社会の大きな問題であり、その解決には日本社会と政治の骨組みを変える必要を感じます。

チャイルド・プア

140904チャイルドプア

『チャイルド・プア』(新井直之著、TOブックス)を読みました。

著者はNHK報道番組ディレクターで、本書は2012年10月19日にNHK総合テレビの「チャイルド・プア~急増 苦しむ子供たち~」の番組を書籍化したものです。

「チャイルド・プア」も著者の造語で、子どもの貧困は国際的には「Child poverty(チャイルド・ポバティ)」というそうで、著者としては当時、「子どもの貧困」という言葉は一般的でなかったため、今まで結びつくことのなかった「Child」と「poor」の2つの単語を並べることで、違和感とともに、多くの人に関心をもってもらえると考えた、とのこと。

昨年(2013年)6月には子どもの貧困対策法(「子どもの貧困対策の推進に関する法律」)が成立し、今年1月に施行されています。

著者が取材を通してもっとも強く感じたのは、貧困の家庭で、様ざまな不利を背負って成長した子どもは、学力不足や低学歴によって、大人になってからも安定した職業に就けず、貧困から抜け出せない、「貧困の連鎖」が驚くようなスピードで進んでいること、とのこと。

子どもの貧困は、もはやどこか遠くの世界の話ではなく、私たちのすぐ隣で起きている身近な問題であり、取材のあとも、その状況は悪化の一途をたどっている、と指摘しています。

子どもの貧困対策法に基づく実効性の高い対策が求められます。

規制改革会議「農業改革」徹底批判

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『規制改革会議の「農業改革」20氏の意見』(農文協ブックレット⑪)を読みました。

今年(2014年)5月22日に政府の規制改革会議が「農業改革に関する意見」を出し、これを下敷きに、6月24日に安倍内閣は「農林水産業・地域の活力創造プラン」(改定)と「日本再興戦略」(改定)を閣議決定しました。

本書の編集部による「まえがき」によれば、「市場原理のみを至上の原理とする経済社会の在り方に対し、人間社会は今、もうひとつのセクター、参加、協同、共生等を原理とする『共同セクター』を必要とし…その中心に立たねばならないのが協同組合であり、とりわけ地域に根をおろした農業協同組合であるべき」としています。

本書では、その立場から、これまでの農協の弱点の克服も提示しながら、安倍農業改革路線の全面的・徹底的批判を、農文協の「シリーズ地域の再生」(全21巻)を執筆した20氏が展開してくれます。

ともかく、やはり「まえがき」ですが、「この改革は、日本が直面する課題=“地域と共同の再生”を真っ向から否定し、大資本本位の成長戦略の鋳型に農業・農協を押し込め利用しようとする、お門違いと時代錯誤なものと断じざるを得ません」。

戦後史のなかの福島原発

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『戦後史のなかの福島原発』(中嶋久人著、大月書店)を読みました。

日本近現代史の研究者による、原発建設の歴史的経過について正面から検討した本です。

原発が立地された「福島県浜通り」は、著者が『原町市史』編さんや、浪江町の自由民権家刈宿仲衛(かりやど・なかえ)の研究などを通してゆかりがあり、眼前によみがえるのは「その折に目にふれた、山林や田畑など、緑美しい大地」です。

その土地から「福島県浜通りの人びとは福島第一原発事故によって追い出された」、「こうした状況を歴史研究でどうとらえたらいいのか」、「どのように、福島県浜通りの人びとが生きてきたのかということが、彼らがどのような地域で生活するにせよ、その生存を構想する前提になるのでは」、そんな思いが込められています。

「三・一一は、原発が建設される地域においては、生存の基盤となる地域社会全体に対するリスクと、地域生活を営むうえでの雇用・補助金などのリターンとの交換は、いかに不等価のものであったかということを明らかにし」ました。

原発依存社会からの脱却の第一歩は、その経過の理解にある、と著者は提起します。

変わる介護保険/認定を受けた人を守り、現実を見据えた制度に

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『もっと変わる! 介護保険』(小竹雅子著、岩波ブックレット)を読みました。

今年(2014年)6月18日、「地域における医療および介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が、すべての野党の反対のなか、与党だけで強行成立させられました。

6月18日というのは私の誕生日で、いつも通常国会の最終盤で、延長するかどうかを含め、なにかしらは起こる日です。しかも県議会も6月定例県議会の会期が始まる時期で、誕生日どころでないことをいつも実感しています。

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そんなことはともかく、この法律は、「医療介護総合確保推進法」とか「医療介護総合法」とかと略して呼ばれますが、私は短い後者を使っています。

本書では、1997年に介護保険法が成立し、2000年から施行され、2005年に「介護予防」をテーマに改定され、2011年には「地域包括ケア」をキャッチフレーズに改定された経過もふまえながら、今回の改定が「地域包括ケアシステムの構築」と「費用負担の公平化」が政府の言うポイントであることを示しつつ、具体的に変わる点をその背景を含めて簡潔に解説してくれます。

在宅サービスの利用者が多いのにその実態調査が一度も実施されていないこと、介護認定の一次判定の基準をつくる「高齢者介護実態調査」でも在宅の高齢者の調査はされたことがないことなども指摘しながら、介護保険制度が認定を受けた人を支える原則を守り、現実を見据えた役割を果たすべきことも提起しています。

無業社会

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『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(工藤啓・西田亮介著、朝日新書)を読みました。

15~39歳の若年無業者の数は200万人を超え、その年代の16人に1人になっている、とのこと。

「働きたいけど働けない」「働き続けることができない」「もう何から始めたらいいのかわからない」

本書は、こうした若年無業者が特別な若者だけの問題ではなく、誰にでも起こり得ること、解決すべき社会課題であること、こうした若年無業者に対する誤解を解くために、実情をひもとく試みの書です。

そのために、こうした若者支援を通し、その現場で出会った若者7人の事例、著者らが昨年(2013年)に出版した『若年無業者白書』制作時に得られたデータから、若年無業者に関する偏ったイメージや誤解へのQ&A、そして若年無業者の問題をとりまく構造的な条件や歴史的な側面の分析などをします。

自己肯定感と自信をもてる人づくり、雇用のルールづくり、社会保障制度の充実も、この社会問題解決には不可欠です。

ただ、この問題を社会的に共有するためには、若年無業者とその生活実態、彼らをとりまく環境についての調査が十分には行なわれていないことも課題として示されます。