国が地域医療を滅ぼす日/「デュオ・ピークス」/地域包括ケアシステム成功のキーワード

『国が地域医療を滅ぼす日』(大野健次著、ワニブックス)を読みました。副題が「迫りくるデュオ・ピークスの脅威」。160429デュオピークス

「デュオ(ラテン語で「2」)・ピークス」とは、団塊の世代が75歳以上となって高齢者のピークを迎える2025年、その15年後に死亡者数がピークに達する2040年の2つのピーク。9年後と24年後の話です。

著者が院長を務める金沢の城北病院は、「無差別平等の医療」を掲げ、差額ベッド代をとらず、もっとも弱い人の立場に立った医療を実践する、民医連(全日本民主医療機関連合会)加盟で、314ベッドの中規模病院です。160429デュオピークスオビ城北病院で思い出すのは、09年に同じワニブックスから出版された『笑って死ねる病院』。テレビ金沢制作で、日本テレビ「NNNドキュメント’08」で08年6月に全国放映された番組の書籍化でした。

それはともかく、本書でいう「デュオ・ピークスの脅威」とは、現象そのものではなく、政府の政策こそが脅威を招くとする現実を解き明かします。160429デュオピークス病床たとえば病床(ベッド)数削減政策。診療報酬改定によってベッド数は減ってきているにもかかわらず、政府は、地域包括ケアシステムとセットさせ、医療費削減の目的でベッド数をさらに削減しようとしています。

しかし、「この地域包括ケアシステムを成功させるためのキーワードは中小病院の機能をしっかり残し日本の伝統ともいえる地域医療を崩壊させないこと」と強調します。

だれが医療を殺すのか/「医療の真実」/災害医療・危機管理

『だれが医療を殺すのか』(石井正三[まさみ]著、ビジネス社)を読みました。医療を殺す著者は2代前のいわき市医師会会長で、現在は日本医師会常任理事。09年からは世界医師会副議長を務め、昨年(2015年)からは世界医師会財務担当役員として世界各国をまわる機会も多いようです。

本書の冒頭で、06年2月に産科医が逮捕、起訴された「福島県立大野病院事件」を取り上げ、この事件への抗議が「私の原点」としています。実は私もこの事件については、「安心してかかれる医療の実現」という立場から、06年6月県議会の一般質問で県の姿勢をただしていました。医療を殺すカバーソデ日本の「医療の真実」に迫る著者の考えを中見出しから拾ってみると、「医療制度を壊す新自由主義」、「政治によって分断された医療界」、「医療費抑制策の過ち」、「驚くべき官僚と政治の劣化」、「社会保障費はコストでなく共有財」、「企業の内部留保を財源に活用」、「医療従事者の待遇改善と医療費の適正な支払いを求める」、「女性が働きやすい医療環境を整備せよ」… 議論や異論があるテーマや叙述もあるでしょうが、うなずけることもたくさんあります。医療を殺す目次本書後半では日本医師会・世界医師会としての災害医療・危機管理の考え・動きが具体的です。

巻末には資料として、今後の大震災時医療の参考にと、2011年3月11日~20日の著者自身の体験が記録されています。5年前の3月11日は著者が立ち上げた病院の開院26周年の日だったそうです。

警察捜査の正体

『警察捜査の正体』(原田宏二著、講談社現代新書)を読みました。警察捜査著者は、1957年に北海道警察に採用され、1995年に釧路方面本部長を最後に退官しました。ノンキャリアとして、階級的には最高のポストまで就きました。2004年2月には、道警の裏金問題について「告白」会見したその人です。

05年には『警察内部告発者』(講談社)を出版、私はその本を読み、福島県警から資料も取り寄せ、北海道警警務部長を経験した当時の県警本部長に、県警での裏金づくり疑惑を追及していました(2005年9月議会一般質問)。

本書では、警察官として半生を過ごし、警察の現場で犯罪捜査を体験した著者が、犯罪捜査の実態を明らかにします。警察捜査オビ裏最近の犯罪捜査は、とくに監視カメラ映像や、DNA鑑定の利用など、デジタル化が顕著ですが、実は、そうした犯罪捜査の法的な整備は怠ったまま定着させ、広げようとし、令状主義を逸脱した事実上の強制捜査といった「グレーゾーン捜査」も当然のように行われている、と指摘します。

その背景には、一部のキャリアが支配する現状、根拠の薄いノルマによる業務管理、経験不足の警察官の増加、幹部枠拡大による幹部の資質の低下といった組織的問題もあります。警察捜査著者

こうしたなか、警察国家への道を加速させる特定秘密保護法制定、さらには安全保障関連法、共謀罪制定や憲法改定の動きに警鐘を鳴らします。

ウクライナとチェルノブイリ法/国家の責任/ロシア政府報告書と福島の甲状腺検査

『原発事故 国家はどう責任を負ったか ウクライナとチェルノブイリ法』(馬場朝子・尾松亮著、東洋書店新社)を読みました。160424チェルノブイリ法2014年8月23日放送のNHK ETV特集番組取材を通して明らかとなった、チェルノブイリ法制定までの関係者たちの被災者への熱い思い、立ちはだかった壁、ようやく制定されたチェルノブイリ法がたどった苦難の歴史を、番組では伝えきれなかった多くの証言者たちの生の声をまとめたのが本書です。160424チェルノブイリ法オビ裏ウクライナでの現地取材に基づく見聞やインタビューをまとめている著者の一人、馬場さんは、以前にも ETV特集番組をもとに『低線量汚染地域からの報告』(山内太郎氏との共著、NHK出版、2012年)を出版していました。

また、ウクライナの法制度や社会制度の解説を本書で担当し、チェルノブイリ法による被災者保護制度の研究者である尾松氏も『3・11とチェルノブイリ法』(東洋書店、2013年)を上梓されています。DSC01799まもなくやってくる4月26日には、ウクライナのチェルノブイリ原発事故から30年を迎えます。

本書の「おわりに」の一文を深く受け止めたいと思います。「福島の30年後を想像してみる。果たして、その時日本は被災者と真正面から向き合っているだろうか。法律は原発被災者を忘れないという国家の思いを形にしたものである。私たちはそのような法律を作り上げることができているだろうか。原発再稼働が進む今、国家はそれが引きおこすすべての事態に責任を持つ覚悟があるのだろうか。その国家の責任を問い続けていくことは、私たちの責任である」。160418朝日・福島版なお別件ですが、「朝日新聞」福島版4月18日付で、2011年に発表されたロシア政府報告書に触れて尾松氏が都内で講演し、福島県における子どもたちの甲状腺がん検査経過の「検討委員会」などの説明が、ロシア報告書と「大きく食い違う」と批判し、「先例となる被災国の知見をゆがめて伝えることで、教訓を生かせなくなるのではないか」と懸念を表明したことが紹介されています。

火山や中央構造線への影響の懸念/記事切り抜き/散歩/不破・沖縄パンフ

けさのNHK「週刊ニュース深読み」では「熊本地震」の今後の影響の可能性について、東大地震研・古村(ふるむら)孝志教授が触れていました。160423NHK週刊ニュース深読み

阿蘇などの火山活動、中央構造線断層帯の地震活動への影響を懸念されていました。ただ、時間も短かったのですが、地図には原発が書かれていません。160423切り抜き

午前中は「しんぶん赤旗」を中心に4月に入ってからの記事の切り抜き。国民の暮らし破壊TPP、混迷と破たんのアベノミクス検証、日本の子どもの貧困ワースト8、日本のエンゲル係数上昇、政府の共産党に関する時代錯誤の「暴力革命」答弁書、憲法破壊の戦争法は廃止、などなど。

いつも「その日の新聞はその日のうちに」と言い聞かせているのに、いつも「あとからまとめて」になってしまっています。160423平南台中央P2

その後、ペロと散歩。四丁目の2つの公園を回り、小学校脇を通って帰宅するコース。160423サッカー

夕刻には共産党出版局発行のパンフレット『基地のない沖縄をめざして 現状と前途を考える』を読みました。今年3月、那覇市で不破哲三前議長の講演の記録を整理・補筆し、注を加えたものです。160423不破・沖縄パンフ

沖縄はなぜ日本から切り離されたのか、アメリカは沖縄にどんな基地をつくってきたか、アメリカは辺野古新基地建設で何を目的としているか、闘争の展望はどこにあるか、の4つの問題に切り込んでいます。

講演会に寄せられた翁長雄志(おなが・たけし)知事とオール沖縄会議共同代表の呉屋守将(ごや・もりまさ)さんのメッセージ、金城徹(きんじょう・とおる)那覇市議会議長の来賓あいさつも掲載されています。

隠れ貧困

『隠れ貧困』(荻原博子著、朝日新書)を読みました。160414隠れ貧困

先月(3月)30日発行で、きょうは4月14日ですが、手元の本は4月20日2刷になっています。けさの「朝日新聞」の広告では「大増刷!3万部突破」とあります。

それはともかく、本書の第4章までに登場する3家族の夫は、中堅銀行課長、中堅機械メーカー部長、ゼネコン部長職の40~50代で、年収800万円。160414隠れ貧困・カバー

ところが、ぜいたくな暮らしをしているわけでもないのに、将来の見通しが真っ暗な「隠れ貧困」を抱えている家族なのです。

収入が人並み以上なのになぜなのか?

様ざまな方がたの取材を通してデータを集め、働き盛りのこうした家族の家計が直面している問題の実態に迫っています。160414隠れ貧困・オビ裏

第5~8章は「隠れ貧困」に陥らないための提案とアドバイスで、年収にかかわらず、参考になります。

貧困世代/現実を共有し、社会構造を変える提言

『貧困世代』(藤田孝典著、講談社現代新書)を読みました。160407貧困世代

『下流老人』(朝日新書)の著作もある著者が、共産党発行の『女性のひろば』4月号で、田村智子参院議員と対談し、「『下流老人』予備軍といえるのが『若者の貧困』です。それも『見える化』しないといけない」と、この本の出版についても語っていました。160407貧困・ひろば4月号「貧困世代」とは「一生涯貧困に至るリスクを宿命づけられた状況に置かれた若者たち」約3,600万人のことです。

若者たちが置かれている状況や貧困の実態、生活の困難さをひとことてわかりやすく伝えられる用語として、半年ほど悩み、同い年の本書編集者、大学の同僚などとの語り合いから創作された言葉です。

ちなみに著者は1982年生まれの30代の若者です。

著者自身が直接相談を受けた若者たちのリアルな声から見える若者たちが置かれた現実、その貧困状況を「大人たちがわからない悲劇」、ブラックバイトと奨学金問題による「学べない悲劇」、貧困世代が抱える「住めない悲劇」…160407ハタ・仕送り額この現実を共有し、この現実を招いている社会構造を変えるための提言書です。

免疫が挑むがんと難病/原発労働者

『免疫が挑むがんと難病』(岸本忠三・中嶋彰著、講談社ブルーバックス)、『原発労働者』(寺尾沙穂著、講談社現代新書)を読みました。

『免疫…』は、「日本の研究者たちの不断の努力と活躍を縦糸に、最新の成果を横糸に織り込んで紡ぎ出した、現代免疫学の物語」(プロローグ)というわけで、「樹状細胞」「制御性T細胞」「成人T細胞白血病との戦い」「免疫チェックポイント分子」「インターロイキン6」の「物語」が興味深い語り口で綴られます。160401免疫が挑むがん入院中から読み始め、退院後は放射線治療の待ち時間に読み進め、やっと読み切りました。

『原発労働者』は、「あの日から5年、3.11の夕べ」という、いわき市内での企画でピアノ弾き語りをするシンガーソングライターが著者であること、その取材先にかかわって渡辺博之いわき市議も登場することを、企画協賛のかもがわ出版編集長ブログで知り、手にしたくなった次第です。160401原発労働者

入院中のことだったので、成りゆき上、娘に購入をお願いしていたのですが、手元に届いたのは3月26日でした。160401原発労働者・オビ

もともと著者は、1980年くらいまでの原発労働者たちの貴重な証言集と言っていい、樋口健二『闇に消される原発被曝者』を読み、できれば2000年代の原発労働の実態を知りたい、との思いを抱いていたそうです。

「憲法改正」の真実/「護憲派」泰斗と「改憲派」重鎮の対論/心の独立戦争

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『「憲法改正」の真実』(樋口陽一・小林節著、集英社新書)を読みました。

買ったその日に新書を読み切ることはめったにないことでした。ほんとうに引き込まれました。

2人の憲法学者が、国民は本気になって「知る義務」を果たしてほしい、そのためにも専門家として本気になって「知らせる義務」を果たすから、とある意味、切迫感を感じる対論です。

憲法学者とはいえ、小林さんが最初に紹介してくれているように「マスメディアがつける枕詞を借りて乱暴にまとめると、樋口先生は『護憲派』の泰斗(たいと)、私は『改憲派』の重鎮(じゅうちん)だと言われてきた憲法学者です」。

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安倍首相やそのお友だち、安倍政権を評価する言葉はあちこちで辛辣ですが、そうとしか言いようがない、というお二人の思いが全体ににじみ出ています。

樋口さんは言います。「憲法という意味の constitution だけでなく、日本社会の構造という意味での constitution まで破壊している…日本銀行、内閣法制局にはじまり、日本放送協会まで、戦後を支えてきた社会の構造を次々に破壊しようとしてきた…救われる思いがするのは、その破壊に対して、現場では人々が根気強く抵抗し、自分たちの使命を果たそうとしていること」。

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小林さんは最後に強調しています。「この戦いは、私たち日本国民に意識の変革を求めるもので、短期間では決着のつかない、主権者としての心の独立戦争のようなものである」。

福島が日本を超える日

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『福島が日本を超える日』(浜矩子・白井聡・藻谷浩介・大友良英・内田樹著、かもがわ出版)を読みました。

「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」の原告のみなさんを対象に開かれた、裁判中の講演会の記録です。

というのも、この「生業訴訟」の原告団は4,000人ほど。ほぼ2か月ごとに行われる裁判のたびに県内各地、全国各地から何百人もの原告が駆けつけますが、傍聴できるのは数十人。

そこで、傍聴できない原告のみなさんが有意義な時間を過ごせるよう、裁判と並行して、弁護団・原告団が主催し、本書の出版社が後援する講演会が企画された、という次第です。

この訴訟の趣旨に賛同し、講演されるみなさんにとっても、徒歩数分のところで行なわれている裁判の時間帯に、同じ裁判の原告を前に話をする体験はそうないはずです。

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それだけに、本書に登場する5人の講演者のみなさんが、原告のみなさんに寄り添い、ともに裁判をたたかう気持ちがはじける話ばかりです。

大友さんは横浜生まれで、9~18歳の思春期を福島市で過ごした音楽家。80代半ばのご両親は今も福島市暮らしだそうです。原発事故後、ドイツでの反原発デモで「ノーモア・フクシマ」のいっぱい掲げられたプラカードに激しく傷つきショックを受けたとのこと。

堂々と「ノーモア・フクシマ」と言える日、この訴訟をたたかったことに人類が誇りを持てる日が来てほしいと願う話。「あまちゃん」とどうつながるのか、ジ~ンときます。