『原発事故 国家はどう責任を負ったか ウクライナとチェルノブイリ法』(馬場朝子・尾松亮著、東洋書店新社)を読みました。2014年8月23日放送のNHK ETV特集番組取材を通して明らかとなった、チェルノブイリ法制定までの関係者たちの被災者への熱い思い、立ちはだかった壁、ようやく制定されたチェルノブイリ法がたどった苦難の歴史を、番組では伝えきれなかった多くの証言者たちの生の声をまとめたのが本書です。ウクライナでの現地取材に基づく見聞やインタビューをまとめている著者の一人、馬場さんは、以前にも ETV特集番組をもとに『低線量汚染地域からの報告』(山内太郎氏との共著、NHK出版、2012年)を出版していました。
また、ウクライナの法制度や社会制度の解説を本書で担当し、チェルノブイリ法による被災者保護制度の研究者である尾松氏も『3・11とチェルノブイリ法』(東洋書店、2013年)を上梓されています。まもなくやってくる4月26日には、ウクライナのチェルノブイリ原発事故から30年を迎えます。
本書の「おわりに」の一文を深く受け止めたいと思います。「福島の30年後を想像してみる。果たして、その時日本は被災者と真正面から向き合っているだろうか。法律は原発被災者を忘れないという国家の思いを形にしたものである。私たちはそのような法律を作り上げることができているだろうか。原発再稼働が進む今、国家はそれが引きおこすすべての事態に責任を持つ覚悟があるのだろうか。その国家の責任を問い続けていくことは、私たちの責任である」。なお別件ですが、「朝日新聞」福島版4月18日付で、2011年に発表されたロシア政府報告書に触れて尾松氏が都内で講演し、福島県における子どもたちの甲状腺がん検査経過の「検討委員会」などの説明が、ロシア報告書と「大きく食い違う」と批判し、「先例となる被災国の知見をゆがめて伝えることで、教訓を生かせなくなるのではないか」と懸念を表明したことが紹介されています。