地域医療を支える自治体病院/ペロの入院

150114自治体病院

『地域医療を支える自治体病院』(伊藤周平・邊見公雄・武村義人・自治労連医療部会編、自治体研究社)を読みました。

2012年8月の民自公談合による社会保障制度改革推進法、2013年8月の社会保障制度改革国民会議「報告書」を受け、同年12月には社会保障改革プログラム法(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」が成立させられ、これに基づいて2017年までに医療制度改革をはじめとした社会保障制度改革のための関連法案が国会に提出予定です。

その第一弾が昨年(2015年)6月にすべての野党の反対を押し切って成立させられた「医療介護総合法」(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」でした。

この法律のねらい・本質・問題点を明らかにするとともに、各地で、医療・介護を住民の立場で守るとりくみが紹介されています。

神戸市の診療所、名古屋市立の病院から見た医療、介護保険の実情、大阪市・京都府北部・愛知県・東京都・千葉県などの自治体病院の役割が、実践のなかから浮き彫りにされ、地域住民の医療と命を守る一点で共同する運動の展望を示してくれます。

それはそうと、ペロはけっきょく左後ろ足のじん帯断裂の診断で、去年に続き、入院・手術とあいなりました。

地域交通政策/福祉政策・まちづくりの一環

141223地域交通

『地域交通政策づくり入門』(土居靖範・可児[かに]紀夫編著、自治体研究社)を読みました。

住んでいる地域で日常生活を満足におくることができない「生活難民」が身近で急増していることは、多くの人の実感ではないでょうか。

なにせ車がないと、買い物にも行けない、病院にも行けない、遠くもない知り合い宅にも行けない現実です。

公共交通機関であるはずのバス路線は、「もうからない」から廃止が続きます。

本書では、「交通権とは『国民の移動する権利』であり、日本国憲法の第22条(居住・移転および職業選択の自由)、第25条(生存権)、第13条(幸福追求権)などを実現する権利と位置づけ」、「社会インフラとしての交通がベースにあり、その上に医療・福祉・教育をはじめとする住民の生活が営まれている」ことを見据えることは、その状況をもっとも把握できる基礎自治体が責任をもって実現すべきではないか、と、全国での各自治体の実践も示しながら、提起してくれています。

「住民の福祉の向上」に責任を持つ自治体が、交通政策を福祉政策として、まちづくりの一環として位置づける時代だと私は思います。

とにかく、「けしからん」と言っているだけでは前に進まない現実から出発です。

地方消滅の罠/「選択と集中」ではなく「多様性の共生」

141223地方消滅

『地方消滅の罠』(山下祐介著、ちくま新書)を読みました。

オビにあるように、地方を消滅へと導こうとしているのは、「増田レポート」という「虚妄」を書いたあなたたちではないのですか、と問題提起しています。

著者は、増田レポートには「自立」の論理が欠け、「協働」もなく、したがって「循環」もなく、「持続」性もない、代わりに「成長」があり、「選択と集中」があり、そのために「排除」が許され、多様性を認めず、強要があり、「依存」も生まれていく、と喝破。

「大きな破綻に至る前に」「地方への分散化を」「多様性の共生」でできないか。本書の主張です。

150103朝

農山村は消滅しない

141223農山村

『農山村は消滅しない』(小田切徳美著、岩波新書)を読みました。

タイトルのとおりです。

安倍首相のもとで、「まち・ひと・しごと創生本部」設立の契機となったのは、「特定の市町村を乱暴な推計により『消滅可能性都市』と決めつけ、名指しした『地方消滅論』」でした。いわゆる「増田レポート」です。

農山村の「歩き屋」としての著者には、この議論に政治的意図も感じ、「これまで厳しい状況のなかで懸命に地域づくりに取り組んできた人々に対して、『どうせ(ここは)消滅する地域なのだ』という『諦(あきら)め』の気持ちをもたらしてしまった副作用は、看過できない」ものでした。

農山村の「再生を図りながら、国民の田園回帰を促進しつつ、どの地域も個性を持つ都市・農村共生社会を構築」することを、現場をとことん歩いてみた事例をもとに、その展望を具体的に詳細に示してくれます。

地方は「どっこい生きている」のです。

復興災害/復興の第一義は被災者の生活再建

141223復興災害

『復興〈災害〉』(塩崎賢明著、岩波新書)を読みました。

率直に、私自身が、というか共産党福島県議団がこの「復興災害」に悩まされている気がしてなりません。

そもそも本書は、住宅問題やまちづくりを専門としていた著者が、1995年1月の阪神・淡路大震災を契機に災害復興の問題にとりくみはじめ、「いまなお震災を引きずり、復興が成し遂げられない人々が存在することにあらためて慄然」とし、「そのことが世間では必ずしも共通認識になっていないので」「それをまず伝えたい」ことと、東日本大震災の「復興から学び、次に備えるべきことを明らかにしておきたい」ことが動機で書かれました。

したがって本書は「復興の20年ー阪神・淡路大震災のいま」「東日本大震災ーいまとこれから」「阪神・淡路、東北から“次”への備え」の三部構成です。

ともかく、東日本大震災後を含めてこの20年間のさまざまな施策を検証しますが、「復旧・復興の最も大きな課題は被災者の生活の再建」のはずなのに、この位置づけがあまりに弱い。

「被災後も健康を維持し、収入を確保し、人間らしい暮らしを続けながら…住宅復興を成し遂げること」が第一義に置かれていないのです。ハード事業優先です。「国際競争力の向上」すら強調されます。

まさにたたかいの真っただ中であることを痛感します。

また、福島の原発避難者に触れたところでは、「これまでの災害復興では考えられない困難に直面しており、本書ではほとんど論ずることができない」と書かれているように、原発震災被災地・福島の課題は、さらに深刻なのです。

子どもの貧困

141125子どもの貧困

『子どもに貧困を押しつける国・日本』(山野良一著、光文社新書)を読みました。

著者は児童福祉司として児童相談所にも勤務し、今は「『なくそう! 子どもの貧困』全国ネットワーク」の世話人を務めています。私の一つ年下です。

「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が議員立法によって、昨2013年6月に衆参両院で全会一致で可決され、今年1月に施行されました。

この法に基づき、政府が大綱を定めたものの、著者によれば、過去最悪の貧困率を更新した直後の決定でありながら、その貧困率に対する危機感は感じられず、関係者がもっとも強く求めていた子どもの貧困率削減などの具体的な数値目標が盛り込まれなかったことは、法律制定の意義そのものが形がい化しかねない、と危惧されます。

少子化が進行させられ、子どもの数は減っているのに、貧困な子どもは増えているのが現実です。そして、子どもの貧困率が全体の貧困率を超えたという事実は、社会のひずみや矛盾が子どもたちに集中しやすくなっている社会構造の問題ではないのか。

それはけっきょく、国家としての日本が子どもたちに貧困を押しつけているのであり、これを解消するには、子どもの気持ちから貧困問題がどう見えるかを創造力で見据え、その社会構造を変えることではないか、との問題提起の書です。

自壊の道を進む安倍政権/増田レポート批判

141116大国安倍政権

『〈大国〉への執念  安倍政権と日本の危機』(渡辺治・岡田知弘・後藤道夫・二宮厚美著、大月書店)を読みました。

安倍政権は、グローバル競争国家をめざすと同時に復古的国家主義の2本のレール上を暴走しています。

この2本のレールの間にジレンマがあるために、この政権は脱線するように自壊の道を突き進みます。

この特殊な右派思想をもつ安倍政権が、靖国参拝などで中国との関係を悪化させ、オバマ政権を嘆かせ、閣僚も右派思想の「お友だち」を集めたに過ぎないのに、なぜこれほど多領域で同時に、速いスピードで現状を変える作業がリードできるのか。

なぜこれだけ反対の声が強いのに集団的自衛権行使容認を強行するのか。

規制撤廃・小さな政府と、産業競争力強化のための国家介入がなぜ両立するのか。

なぜ原発再稼働にこだわるのか。

こうした疑問を解きほぐし、新しい平和と福祉国家を展望し、国民的規模で憲法九条の生きるアジアと日本の構想をさし示してくれます。

141116「世界」論文

きょうは雑誌『世界』9・10月号に掲載された小田切徳美「『農村たたみ』に抗する田園回帰」、坂本誠「『人口減少社会』の罠」、岡田知弘「さらなる『選択と集中』は地方都市の衰退を加速させる」、金子勝「『地方創生』という名の『地方切り捨て』」の各論文からも学びました。

いずれも、今年5月に増田寛也元総務大臣が座長をつとめる日本創生会議が発表した「ストップ少子化・地方元気戦略」(増田レポート)批判です。

社会保障改革/介護保険/あきらめず立ち向かう

141110介護・社会保障

『検証「社会保障改革」』(新井康友他編著、自治体研究社)、『2015「改正」介護保険』(日下部雅喜著、日本機関紙出版センター)を読みました。

「社会保障」は、国民生活の実態、生活上の諸困難を正しく把握するところから解決方策を示すべき、という視点から、大都市・農山村の実態調査もふまえ、書かれています。

生活保護、介護保険と地域包括ケアシステム、高齢者の社会的孤立、過疎地域における障がい者の暮らし、農業を取り巻く住民の暮らしと福祉、原発避難者、都市集合住宅の高齢者、中山間地域の住民の生活のそれぞれを示し、社会保障の再生方向と提言がまとめられています。

「介護保険」は、来年(2015年)4月から改定介護保険の多くが実施されようとしていますが、そこでの市町村による新総合事業を中心とした改悪制度の内容と問題点とともに、利用者とサービスを守るため、「あきらめず立ち向かう」課題も提起しています。

原発も地層処分も不可能な日本/贖罪の一片として

141101地層処分不可

『日本列島では原発も「地層処分」も不可能という地質学的根拠』(土井和巳著、合同出版)を読みました。

著者は1957年、発足間もない原子力燃料公社に仕事を求め、この公社を引き継いだ動力炉・核燃料開発事業団で定年退職するまで、30余年にわたって地質面から原子力畑を歩んだ人です。

その間、発見されて間もない人形峠でのウラン資源調査、原子力関連施設の基盤の地質調査、放射性廃棄物を地層処分する候補地の地質調査など、北海道北部から九州南部まではもちろん、北米のカナダ楯状地(たてじょうち)や北欧のバルト楯状地にある、約6億年以上前の地質時代とされる前カンブリア紀の古く固い岩石の実態も踏査し、また、放射性廃棄物の地下深部での処分に関する国際機関の会議などで海外諸国の対策状況を見てきました。

その著者の目から見て、福島原発事故後の「再稼働」の動きは、「後は野となれ山となれ」主義が健在であり、「無責任な態勢を今後も続けようとする動きそのもの」と断罪し、日本の国土で超長期にわたって高レベル放射性廃棄物と人の社会とを隔離するための「地層処分」は不可能だ、と断定します。

そのうえで代替する方法の研究や実験に転換することを訴えます。

「わが半生をかけて伴走した『原子力』が今の有様のまま立ち往生するのは痛恨の極みであり、贖罪の一片として」書かれた本です。

住民が担い手の教育委員会/暮らしを脅かすアベノミクス

141027教育委員会・アベノミクス

岩波ブックレットの2冊、『教育委員会は不要なのか』(中嶋哲彦著)、『アベノミクスと暮らしのゆくえ』(山家悠紀夫著)を読みました。

今年(2014年)6月、地方教育行政法(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)が、民意の遮断、中央集権体制の維持・強化、首長の教育・教育行政介入の容認、といった内容で、「民意反映」「責任の所在の明確化」「国の最終的責任の明確化」の理由づけで改定されました。

とは言え、安倍政権がねらった、「教育の民衆統制」「教育行政の地方分権化」「教育行政の一般行政からの独立」の基本原理の変更や、教育委員会の廃止がされたわけではありません。

「子ども・若者の豊かな学習・教育は保護者や教職員を中心に、住民自身が担い手になれるような教育委員会を作り出していくことがたいせつです」。

「アベノミクス」については、「あらゆる説明や論理を飛び越した、その非科学性」、「マネタリズム、ケインズ経済学、サプライサイド経済学、さらには新自由主義の経済学に依拠し…要するに、あらゆる経済学が混在」、こうして現状分析をせずに、混在した政策を打ち出しているうえに「現状認識が誤っている」全体像を示しつつ、経済データを丹念に分析し、暮らしを脅かすだけのアベノミクスを告発しています。

経済的側面だけでなく、「倫理的側面からも考えてみなければならない」という著者の思いも込められています。