被爆医師/96歳の肥田さん

130806肥田舜太郎

『被爆医師のヒロシマ』(肥田舜太郎著、新日本出版社)を読みました。

著者は1917年生まれの96歳の医師。全日本民医連創設や綱領策定にかかわったかたであり、私も19年前、全日本民医連事務局で月刊『民医連医療』を担当していた時に、2時間を超えるインタビューに応じていただいていました。当時だって77歳でしたが、民医連のめざす医療、被爆者援護を語る姿はエネルギッシュでした。

本書も、著者の1945年8月6日とその後の医師体験を縦横に語ってもらった録音記録を、「21世紀を生きる君たちに」の副題にふさわしく編集したように思いました。

ともかく、68年前のきょう、広島であった地獄を医師として体験した現実、そしてその後の被爆者支援にとりくみ続け、被爆者に寄り添うことの本質を教えてもらえる思いです。

低線量放射線被ばく・内部被ばくをめぐっては、科学的根拠として誰もが納得できる証拠や証明がなく、私たちの判断を混迷させる一因ではありますが、肥田さんの医師としての原体験の証言として、貴重な読み物です。

違法労働

130803違法労働

『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(今野晴貴著、星海社新書・講談社発売)を読みました。

著者は、非正規雇用が増加し、就職活動が厳しさをましていた06年、大学生の時にNPO法人「POSSE(ポッセ)」を立ち上げ、労働相談活動を続けてきました。今も社会政策、労働社会学を専攻する現役大学院生です。

その労働相談の実態をベースに、経済学、政治学、社会学、法律学が示す要点を使い、「労使関係」と「労働」のそもそも、そしてどうすれば日本の「労働」を変えられるか、さらに変える可能性があることを示します。

「生の現実」から労使関係での違法・合法が決まる分析、個人が会社と向き合うことが実は日本社会全体とかかわっていること、「日本型雇用」の歴史的成り立ち、違法労働のそもそも、そして、「参加とつながりの積み重ねによって『関係』が構築され、はじめて一票で決せられる」、そのプロセスの重要性が語られます。

その語りの経過で、企業別労働組合が主流の日本の労働組合の根本的弱点、また、厚労省などがいう「限定正社員」とは基本的に発想が違う、「同一労働同一賃金」を基本に、仕事に応じた賃金を実現する「ジョブ型賃金」を提案もしています。

立憲主義宣言/「この国を良くしたい」共通の願いと違いの認識

130727自民党憲法改正案

『自民党憲法草案にダメ出し食らわす!』(小林節+伊藤真著、合同出版)を読みました。

慶応大学教授で64歳の小林さんは、35歳の助教授時代から公然と改憲を主張してきた学者です。

かたや伊藤さんは、「立憲主義という近代憲法の存在理由をふまえ、国民が十分に議論を尽くして行なった改正であれば、それは主権者である国民の選択として尊重されるべき」とする「『護憲』でも『改憲』でもない『立憲』の立場」です。

この立憲主義に関して伊藤さんは、「護憲派のみなさんは、この本(日本国憲法が公布された際、文部省が教科書として配布した『あたらしい憲法のはなし』)をテキストにして勉強したりしていますけど、この本には立憲主義がまったく出てこないんです。『国民が憲法を守る』なんて話をしている。結局、戦後の出発点から、この国では立憲主義の教育は皆無だった」と評しています。

そして、小林さんとは「立憲主義に関してはピタリと一致」です。

その小林さんは、「主権者の一人として、専門家として、自民党の改憲草案を読み返しているうちに、これは反憲法的なものであると確信し、声を上げざるを得なくなってしまった」「今回、図らずも明らかになったように…権力は、やはり、濫用されやすい」と、自民党草案を断罪です。

まぁ、ともかく、この日本を「より悪くしたい」と願う人がいるはずもなく、まして、政治家は「この国を少しでも良くしていこう」と思っていることは間違いないのです。

そこは共通点です。ここを認識し、どうして違いが出てきたか、共通の土俵で議論するうえでいろんな示唆をもらえる本です。

「公務は悪」?/国民の「私的」な幸せを実現するのが「公務」

130706公務員

『公務員の実像』(晴山一穂・角田英昭・今西清・秋山正臣編著、新日本出版社)を、先だっての北海道視察の際、移動中に読みました。

現在の行政のあり方や公務員のあり方に、「問題なし」という人はいないと思います。

国民が抱くそうした率直な疑問や批判と、意図的な「公務員バッシング」と言われる非難や公務員の権利・利益を脅かす動きは、まったく違うものと私は思います。

もともと公務員の「公」は、個々人の私的利益の共通の利益である「公益」のための事務処理を社会化し、社会的規模で組織編成するところに生まれる社会公共概念です。

だから、社会が複雑化すればするほど、公務・公共業務は増えるのが必然、というのが私の理解です。「公」は「私」と対立するものではなく、むしろその延長線上にあるはずです。

そもそもの公務・公共業務の検証すらなく、公務員給与の大幅削減を強行したり、「官から民へ」とか言って、公的な事務・事業を民間部門へ移すことによって、公務員が大幅に削減されたり、免職されたり、一方で、「政治主導」のもとで、首長に従わない公務員を「民意に逆らう」反国民的な存在として威圧したり、排除する動きもあからさまです。これらの動きによって、国民の疑問・批判が解決されるはずがない、と私は思います。

本書は、現場で直面している問題や悩み、仕事や国民・住民への思いを公務現場の職員が率直に語り、この現実の仕事や姿への理解を深めることで、国民と公務員との連帯、絆を回復し、強め、国民の利益を拡大する行政、政治の実現をめざして企画されました。

第Ⅰ部では、被災地での大震災直後からの仕事(第1章)、生活保護・自治体病院・国立病院・国民健康保険窓口、ハローワーク現場(第2章)、維新の会によって変質させられる大阪市役所、社保庁解体により分限免職させられた職員の今(第3章)、公務の民間化・非正規化にさらされる指定管理者制度、保育現場、登記事務現場、消費者センター、「官製ワーキングプア」の実態(第4章)が現場から発信されます。

そして第Ⅱ部で、公務員とはどういう存在なのか、公務が公務員によって担われることの意味がどこにあるかを示してくれます。

ともかく、端的に言えば国民の「私的」な幸せを実現するために政治と行政という「公務」はあるわけで、この幸せを実現する方向に変えることがほんとうの行政改革であり、公務員改革です。そのことの理解なしに、私の言っていることが正しいとばかりに行政批判をしていても、前には進まない、という気が私にはしてなりません。

皆保険と医療改革/市場化のテコとなる「推進法」/その転換を

130704医療改革

『皆保険を揺るがす「医療改革」』(横山寿一編著・日本医療総合研究所監修、新日本出版社)を読みました。

安倍政権下で進む、医療の新たな市場化を告発する書です。

社会保障・税一体改革は、自民党政権時の小泉構造改革に端を発し、民主党政権のもとで民自公三党合意によって仕上げられ、自民党に手渡されて今日に至るわけですが、社会保障に関しては、野党時代の「裸の自民党」による憲法を無視した「社会保障制度改革推進法」が社会保障解体と市場化のテコであることを解きほぐします。

そのもとでの政府による医療提供体制の再編シナリオ、「地域包括ケア」を切り口にした介護保険をめぐる動向、看護需給見通しのまやかしなど看護体制と医療提供体制再編の問題、TPPが国民皆保険・地域医療にもたらす根本問題、原発事故による健康障害・放射線から身体を守る医療の問題、福祉国家型医療保障のありようから見た経済的理由による受診抑制と受診困難な実態など、現時点での日本医療をめぐる深刻な問題と、その転換方向を示してくれます。

市民・地域主導がカギの再生可能エネルギー/今でしょ

130617再生可能E

『市民・地域主導の再生可能エネルギー普及戦略』(和田武著、かもがわ出版)を読ました。

著者は現在、日本環境学会会長を務め、なおかつ、2011年3月11日午前中に菅内閣の下で閣議決定され、8月に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生可能エネルギー特措法)」に基づく「調達価格等算定委員会」の委員も務めています。

その委員会は、再生可能エネルギー発電の種類ごとに必要経費を想定し、いずれの発電の場合もある程度の収益が出るように、買取価格や買取期間を政府に提案しました。

その当事者として、この法制度の問題点や課題をしっかりと示してくれていますが、ともかく、日本でも、この特措法によって、電力買取制度が施行され、再生可能エネルギーの普及促進に向けての歩みが開始されました。

原発事故がなかったかのように原発再稼働・輸出に固執する経団連があいも変わらずその見直しを主張し、マスコミでも電気料金のアップなどを理由に否定的な報道もないではありません。

こうした動きも見定め、本書では、市民や地域主体の積極的なとりくみにより、安全で持続可能なエネルギー社会の構築が現実的に可能であることを、ドイツ、デンマーク、そして日本各地での事例で示してくれています。

「Think of Future,Act Now(未来のことを考え、いま行動しよう)」です。今でしょ。

安倍政権の教育改革

130616安倍教育改革

『安倍政権で教育はどう変わるか』(佐藤学・勝野正晃著、岩波ブックレット)を読みました。

第一次安倍政権時の2006年12月、教育基本法が改定され、教育が「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」という文言が削除されました。教師に対する信頼は、教師がこの「直接責任」を果たすことによって得られるはずです。

この直接責任規定は、社会の意思と教育が直結されるべきことを意味し、その方法は、子どもとその保護者たちと教師との人間的交流です。

現在の安倍政権は、この「人間的交流」を断ち切った教基法改定に続き、教師と子どもとその保護者との距離をさらに拡大させようとしています。

その問題点を提示してくれていますが、本書の第1章「虚妄と妄想による教育改革」のタイトルに象徴されています。「現実に根拠をもたない思いつきと独善による政策」であり、「目隠し状態の暴走」です。

「これ以上、子どもも教師も、為政者の虚妄と妄想の犠牲にすることはできない」。

アベノミクスは「アベコベ・ミックス」/軽視できない

130616アベノミクス

『「アベノミクス」の陥穽』(友寄英隆著、かもがわ出版)を読みました。

著者は月刊誌『経済』(新日本出版社)の編集長を95年~06年にわたって務めた経済の専門家。

本書は、今年1月中旬までに、安倍内閣の「日本経済再生本部」「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」、日銀の「政策決定会議」が次つぎと初会合を開き、政策を発表しつつある段階での「アベノミクス」追及第一弾の著者としての位置づけです。

「アベノミクス」の実態は、「あべこべの政策理念」をごちゃごちゃにミックスした「アベコベ・ミックス」とでも名づけたほうが、内容的にはよっぽどふさわしい、とその段階で評しています。

問題は、「自民党、公明党、民主党の『3党合意』にそって消費税増税や社会保障削減などの国民犠牲の過酷な政策を粛々と推進しようというねらい」、そして、「日本の政治の右傾化を促進する旗印になりかねない経済政策」という警鐘です。

「国民の暮らしや雇用、財政や金融、産業政策にとってさまさまな悪作用をもたらして、最悪の場合には、日本経済を制御不能な困難な危機に追い込む可能性」を軽視してはなりません。

反撃/絶望から希望へ

130430反撃

『反撃 民意は社会を変える』(鎌田慧・小森陽一著、かもがわ出版)を読みました。

2人の対談の記録です。鎌田さんは社会問題を追及する社会派ルポライターで、「日本の原発地帯」(1982年)、「六ヶ所村の記録」(1991年)、「原発列島を行く」(2001年)など、「民主主義の対極にある」原発問題も追い続ける「脱原発運動」のリーダーでもあります。

小森さんは日本近代文学を専攻する研究者で、「九条の会」事務局長を務める「護憲運動」のリーダー。

この2人が昨年12月17日、総選挙投票日翌日に初めて顔を合わせ、第二次安倍政権のもとで、これからの草の根運動によって、絶望的な状況があったとしても、決してあきらめず、訴え続け、人々の共感を得、希望につなげていく、そんな躍動感がある対談をしてくれています。

まさに「絶望から希望への反撃」の道すじを大衆運動の歴史からくみとれる書です。

安倍政権/新自由主義・構造改革再起動と軍事大国化/国民運動

130606安倍政権

『安倍政権と日本政治の新段階』(渡辺治著、旬報社)を読みました。

昨年末の総選挙直後から、著者はその結果の見方や今後の国民運動の方向について、新聞や雑誌などで語ってくれていて、私もそのごく一部には目を通していました。

本書はまさに現在進行形の安倍政権について、今年3月ぐらいまでの時点での著者の仮説です。

「なぜ自民党はあんなに大勝したのか?」「なぜ安倍政権は高い支持率を保持しているのか?」「安倍政権は改憲で何をねらっているのか?」「なぜ革新政党は伸び悩んでいるのか?」

著者自身が抱える「なぜ?」に、著者独自の切り口さわやかで鋭い見方を提示してくれています。

安倍第二次政権は、古い自民党政権の単なる復活ではありません。国民多数の支持を受けたわけではないことを承知したうえで、財界・アメリカの期待を担って新自由主義・構造改革の再起動と軍事大国化の課題を遂行しようとするその手法、その大攻勢にあらがう国民運動展開の展望を示してくれます。