低線量汚染

『低線量汚染地域からの報告』(馬場朝子・山内太郎著、NHK出版)を読みました。

NHK「ETV特集」緊急出版! と銘打たれています。

2008年には、チェルノブイリ原発事故後の除染作業者の白血病と白内障、それに小児甲状腺がんだけを原発事故の放射線の影響と認める報告書が、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR;アンスケア)から公表されました。

一方、昨年4月、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ3国の政府関係者、IAEA(国際原子力機関)などの国連の諸機関、G8、EUの首脳が集まって、原発事故から25年が経ち、事故収束へ向けて話し合う「キエフ国際科学会議」が開かれ、「チェルノブイリ事故から25年 未来のための安全」と題した「ウクライナ政府報告書」が発表されました。

この政府報告書では、体中のありとあらゆる組織の病気が記され、これらの病気が原因で被災地の人々の健康は事故直後と比べ、著しく悪化していることが指摘されました。

限定的な影響しか認めない国際機関、数え切れないほどの多くの疾患を認めるウクライナ政府。

本書では、チェルノブイリ原発から南西に140km離れたジトーミル州コロステン市を中心に、医療関係者、政府関係者、住民を取材し、テレビ報道されたその実態が文字にまとめられています。

原発事故は、被災者という立場からすべての人が脱することができたときに終わるのです。

そのことを日本政府はシカと心してほしいと思います。

原発とは/原発に頼らないことを訴えた「国民」は?

『原発とは結局なんだったのか』(清水修二著、東京新聞)を読みました。

著者は、7月の福島県議会海外行政視察に顧問として私費で同行してくれた福島大学教授です。2008年4月から今年3月までは副学長として原発事故後の対応にも奔走されました。

財政学・地域論を専門にする立場から、原発には一貫して批判的な立場をとってきた学者です。京都大学の私の大先輩でもあります。

著者にとって、答えは出ているように思えるので、本書のタイトルでは過去形表現をとった、とのこと。

結論を書いてしまうと、原発とは、国民の「自覚なき選択」と「怠惰な現実主義」に支えられた存在であり、「国民から遊離した科学」の世界に置かれてきた技術であり、日本的な金権システムをテコに地域住民や地方自治体を「理性より利害」の世界に取り込んで立地を促進する「地域差別の構造」をはらんだもの。

原発を批判し続けたご自身を含め、原発に頼らない社会を訴え続けた「国民」の姿に触れられていないことが私の不満です。