『原発と日本の未来』(吉岡斉著、岩波ブックレット)を読みました。副題は「原子力は温暖化対策の切り札か」。
著者は「原子力発電に対し『無条件反対』の立場」はとりませんが、「新増設禁止の法制化を主張していない点において…脱原発論者ではないが、原子力発電の弱点と生存能力に対する評価においては、実質的に脱原発論者に近い」と、自らの立場を明らかにしています。
そのうえで、「停滞する世界の原子力」、「難航する日本の原子力」、「日本の原子力政策の不条理」を実証的に記述してくれています。
「地球温暖化対策として原発拡大は有効だという主張」に対しては、原子力発電拡大と温室効果ガス排出削減との間の逆相関関係を見れば、「原子力発電拡大という行為は、地球温暖化防止対策としては歴史的に失敗」という「経験的事実を重くみるべきだ」との主張は説得的です。
エネルギーを生み出す際の温室効果ガス排出量が少ないなどの一方で、事故による放射線・放射能の環境への大量放出の危険を内包し、各種の放射性廃棄物を生み出すわけで、これら正負の環境特性に見合う支援・罰則措置を政府は講ずるべきだし、これまで税金で負担してきた一連の支援(立地支援、研究開発支援、安全規制コスト支援、損害賠償支援等)のコストは本来全て、事業者が負担することが、「自由で公正な社会の当然のルール」だと主張されています。