『福島原発事故と小児甲状腺がん』(宗川吉汪[そうかわ・よしひろ]・大倉弘之・尾崎望[のぞむ]著、本の泉社)を読みました。ブックレット仕様です。「はじめに」の冒頭で「本書の主張は単純明快です。福島の小児甲状腺がんの多発の原因は原発事故でした。福島県が2015年8月31日に発表した第20回県民健康調査のデータを統計学的に解析した結果、上の結論を得ました」と。1章が本書主張を論証するメイン、2章がその統計学的分析、3章が臨床医としてとりくんでいる避難者健診、1・2章を受けての提言です。
まず、県の発表結果の発見率から単純に患者数を推定し、次に先行検査・本格検査での平均観察年数(先行=9.5年、本格=2.975年)を加味して10万人当たり1年間の患者発生数を推定(先行=9.5人/年、本格=54.7人/年)し、さらに受診対象者に対する実際の受診者の割合である受診率を考慮して、統計学的に以上の推定値がどの程度の誤差の範囲にあるかを導いています。結果、先行と本格の発生頻度の比は11.7:35.4。そして、原発事故後に発症した子どもの甲状腺がんの67%以上は原発事故によると推定しています。
県側が原発事故の影響を否定する論拠とした「チェルノブイリ後の事実」とは異なる事実が報告されている、「先例となる被災国の知見をゆがめて伝えることで、教訓を生かせなくなる」(尾松亮氏、「朝日新聞」福島版4月18日)との指摘もあり、地域別・年齢別・性別の影響の違いなどを含めてより詳細な分析結果を県側が示すとともに、経済的な不安なしで継続的な健診を東電と国の責任で実施することは不可欠です。