『調査報告「学力格差」の実態』(志水宏吉他3人著、岩波ブックレット)を読みました。
本書では、1989年、2001年、2013年の三時点での学力調査の結果を比較していることが最大の特徴です。その時の小5、中2を対象にしていて、89年はゆとり教育の前の状況を、01年はゆとり教育の影響を、13年はゆとり教育以降の「確かな学力向上路線」の影響をそれぞれ反映していると見ることができます。
これらの分析から、「ゆとり教育路線」から「確かな学力向上路線」への政策転換が子どもたちの学力形成に大きな影響を与えた事実、その政策転換を実質化する教育現場・教師のとりくみや授業改善へ向けた継続的な努力があったこと、そして社会関係資本の戦略的意義が浮き彫りにされています。
社会関係資本というのは、親の収入(経済資本)、親の学歴および文化的活動(文化資本)とはまた別に、「学校・家庭・地域における人と人とのつながり」のことです。
家庭の収入や親の学歴が高いほど子どもたちの学力は高くなる、というのは今や自明で、そこにとどまっていては展望が見えなくなってしまい、学校の内部、そしてその周囲に社会関係資本を蓄積していくことが、子どもたちの学力格差の克服にいたる道を開くことになると、本書での分析から導き出しています。
今後の課題としても、社会関係資本がもつ教育上の可能性について、多様な形での実証研究の実施とその検討をあげています。