『医療と地域社会のゆくえ』(角瀬保雄監修、非営利・協同総合研究所いのちとくらし編、新日本出版社)を読みました。「震災後の国で」と副題がついています。
宮城・坂総合病院名誉院長の村口至さんは、震災前からの社会制度や政策によって、立場の弱い人々の扱われ方が、被災によっても格差・差別の構造として現れたことをつぶさに検証しています。
また、復興においても、地域で生活するうえでの基本的課題を押しのけて、震災便乗型の企画が医療分野でも「成長戦略」の名のもと、「メディカル・メガバンク構想」として´ばく進´させられようとしています。
このメカバンク構想につては、龍谷大学名誉教授で医師の上林茂暢さんが、阪神・淡路大震災後に「創造的復興」計画として打ち出された「神戸医療産業都市」にさかのぼり、地域医療やその基盤となる適切な食、居住と切り離されたゲノム創薬、再生医療といった先端医療の危うさを指摘しています。
福島・医療生協わたり病院医師の斎藤紀(おさむ)さんは、原発事故から2年たった時点での構図を、「土壌汚染」「年間積算線量、集団積算線量」「自主避難」「甲状腺がん」「低線量率持続被曝」「低線量放射線被曝の社会病理学」として描いてくれています。
ほかに、社会保障改革推進法が進める社会保障「破壊」、TPPが国民皆保険制度を骨抜きにする危険、こうした全体状況の中で、地域の潜在的な医療ニーズを掘り起こし、患者と住民の参加を通じた事業の発展を、医療における非営利・協同組織のこれからの課題として提起しています。