『人類哲学序説』(梅原猛著、岩波新書)を読みました。
まもなく米寿(88歳)を迎える著者が、原発事故を伴う東日本大震災が起こったことにより、書くことを決意した本です。
大震災の年の秋に、京都造形芸術大学東京芸術学舎で行なった全5回の講座の講義がもとになっています。
ものすごく簡単に言ってしまうと、原子力発電をおもなエネルギー源とする現代文明は、科学技術文明を基礎づける西洋哲学に寄っており、それは自然破壊を容認する哲学です。この哲学は、もはや未来の人類の哲学として通用しません。
今、人類に必要な哲学は、生きとし生けるものと共生する哲学であり、それは、世界の原初的文化の狩猟採集・漁労採集文化の共通の思想であり、日本文化の根本思想の「草木国土悉皆成仏」(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)が基本になるはずです。
日本文化については著者の50年におよぶ研究成果ですが、若き日以来中断している西洋文明、とりわけ西洋哲学を研究し、より正確でより体系的な「人類哲学」はこれからなので、本書は「序説」です。
マルクス理論に基づく哲学の位置づけは眼中になさそうなのですが、ともかく、「人間はどう生きるべきかという問題を自分の言葉で語るのが哲学」であり、ニーチェが言う「血でもって書け」が著作者としての信念だ、という著者の並々ならぬ決意を感じます。
震災直後に瀬戸内寂聴さんとの対談『生ききる。』(角川oneテーマ21)で、「傲慢の文明を反省して、自然の恐しさを知ると同時に、自然の恩恵に感謝する文明を創らなくてはならない」と言っていた、その実践です。
きょう散髪し、わが家に帰っておやつを食するペロ。